目次 II-1


II.消費税制はここが変わる!

1 消費税の軽減税率制度導入

 消費税率の10%引上げ時期については、「社会保障と税の一体改革」として、平成29年4月1日に確実に実施するとされていたところであり、また、軽減税率については、平成27年度与党税制改正大綱において、「関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める。」とされていました。今年度の税制改正大綱では、「消費税率10%への引上げを平成29年4月に確実に実施する。」とされた上に、税制抜本改革法第7条が低所得者への配慮を要請していることに鑑みての議論の結果、「消費税率が10%に引き上げられる平成29年4月に軽減税率制度を導入すること」とされました。


【1】消費税の軽減税率制度

 消費税の軽減税率制度(複数税率制度)が平成29年4月1日から導入されます。あわせて、軽減税率制度に対応した仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)が平成33年4月1日から導入されます。

 軽減税率の対象となる課税資産の譲渡等(以下「軽減対象課税資産の譲渡等」(仮称)といいます。)は次のとおりとされ、軽減税率は6.24%(地方消費税と合わせて8%)とされます。

軽減税率の対象となる課税資産の譲渡等(軽減対象課税資産の譲渡等)
(1) 飲食料品の譲渡(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除きます。)の譲渡をいい、外食サービスを除きます。)
(2) 定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡
(注)  軽減税率の対象になるかならないか判別が困難なものについての具体的な線引きについては、今後の法案審議等を経て、定められていく予定です。


【2】税額計算の方法と特例の施行スケジュール

 軽減税率の導入後、インボイス制度が導入されるまでの4年間(平成29年4月1日から平成33年3月31日)は、現行の請求書等保存方式を基本的に維持しつつ、区分経理に対応するための措置が講じられます。(後掲「スケジュール」参照)

(1)区分記載請求書等保存方式

 軽減税率が導入されると、経理上、異なる税率による取引を区分する必要が生じます。そこで、仕入税額控除については、インボイス制度が導入されるまでの間は、区分記載請求書等保存方式が採られます。

 区分記載請求書等保存方式とは、基本的には、現行の請求書等保存方式が維持されますが、課税仕入れが軽減税率対象品目に係るものである場合には、帳簿及び請求書等に記載すべきものとして次の事項が加えられます。

帳簿に記載すべき事項として「軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨」が追加
請求書等に記載されるべき事項として「軽減対象課税資産の譲渡等である旨」及び「税率の異なるごとに合計した対価の額」が追加
(注)  上記ロの記載事項については、請求書等の交付を受けた事業者が事実に基づき追記することを認める措置が講じられます。

請求書等保存方式   区分記載請求書等保存方式
 
請求書等の記載事項
 ・請求書発行者の氏名又は名称
 ・取引年月日
 ・取引の内容
 ・対価の額
 ・請求書受領者の氏名又は名称
同左プラス
 ・軽減税率の対象品目である旨
 ・税率ごとに合計した対価の額

(注) 請求書の交付を受けた事業者による追記も可
(平成28年度税制改正)参考資料丸数字2−1「軽減税率制度の導入」(財務省資料)を基に作成

 また、税額計算に関しても、同期間に特例が設けられます。

 具体的には、売上げについて「軽減税率対象売上のみなし計算(A)」、仕入れについて「軽減税率対象仕入のみなし計算(B)」等です。

売上税額計算の特例
(A)(a) (A)(b) (A)(c)
課税仕入れの区分管理のみで計算可能な方法 連続した10営業日の売上区分のみで計算可能な方法 (a)(b)の管理ができない場合の方法

仕入税額計算の特例
(B)(a) (B)(b)
課税売上げの区分管理のみで計算可能な方法 仕入税額の計算ができない場合の簡易課税制度の事後選択

税額計算の方法及び特例の施行スケジュール(案)

(注1)中小事業者以外の事業者は、1年間の措置。
(注2)中小事業者以外の事業者は、1年間の措置として、簡易課税の準用及び事後選択・適用が可能。

(平成28年度税制改正)参考資料丸数字2−1「軽減税率制度の導入」(財務省資料)を基に作成


(A)軽減税率対象売上げのみなし計算

 一定の事業者について、税率が異なる売上げの区分(軽減税率売上割合の計算)に関して、簡便計算の特例が設けられます。

対象者と
措置期間
基準期間における課税売上高が5,000万円以下である軽減対象課税資産の譲渡等を行う事業者(免税事業者を除く) 平成29年4月1日から平成33年3月31日までの期間(4年間)
基準期間における課税売上高が5,000万円超である軽減対象課税資産の譲渡等を行う事業者 平成29年4月1日から平成30年3月31日の属する課税期間の末日までの期間
要 件 国内において行う課税資産の譲渡等を税率の異なるごとに区分することにつき困難な事情があるとき

軽減税率売上割合の簡便計算

(a)簡易課税の適用を受けていない卸売業・小売業に係る軽減税率売上割合
軽減税率売上割合 分母のうちの軽減対象課税資産の譲渡等にのみ
要するもの

卸売業・小売業に係る課税仕入れ等

実務上のポイント
 仕入れた商品をそのまま販売する卸売業や小売業は、売上げに占める軽減税率対象品目の売上げの割合と、仕入れに占める軽減税率対象品目の仕入れの割合は概ね一致しているという趣旨です。
 仕入れの管理ができれば、この方法で売上税額の計算が可能となります。ただし、卸売業・小売業以外の業種に係る課税資産の譲渡等については、通常の税額計算の方法によります。

(b)10営業日の実績による軽減税率売上割合
軽減税率売上割合 分母のうちの軽減対象課税資産の譲渡等

通常の事業を行う連続する10営業日の
課税資産の譲渡等

実務上のポイント
 通常の連続した10営業日の売上げの管理ができれば、売上税額の計算が可能となります。

(c)主として軽減対象課税資産の譲渡等を行う事業者の軽減税率売上割合
軽減税率売上割合 50

100

実務上のポイント
 (a)(b)の割合の算定について困難な事情があるときの計算方法です。


(B)軽減税率対象仕入れのみなし計算

 一定の事業者について、税率が異なる仕入れの区分(軽減税率仕入割合の計算)に関して、簡便計算の特例等が設けられます。

(a)簡易課税の適用を受けていない卸売業・小売業に係る軽減税率仕入割合
対象者と
措置期間
軽減対象課税資産の譲渡等を行う事業者(免税事業者を除く)
(注) 基準期間における課税売上高を問いません。
平成29年4月1日から平成30年3月31日の属する課税期間の末日までの期間
要 件
国内において行う卸売業又は小売業に係る課税仕入れ等を税率の異なるごとに区分することにつき困難な事情があるとき
上記(A)(a)の卸売業及び小売業に係る課税仕入れ等に占める軽減対象課税資産の譲渡等にのみ要するものの割合を用いて売上税額を計算する措置及び簡易課税制度の適用を受けていない課税期間であること

軽減税率仕入割合の計算
軽減税率仕入割合 分母のうちの軽減対象課税資産の譲渡等

卸売業及び小売業に係る課税資産の譲渡等

軽減対象税込課税仕入れ等の計算
軽減対象税込課税
仕入れ等の金額(x)
卸売業及び小売業に係る
課税仕入れ等に係る税込
支払対価の額の合計額(y)
× 軽減税率仕入割合
軽減対象税込課税仕入れ等以
外の税込課税仕入れ等の金額
(y) (x)

(b)簡易課税制度等の事後選択

(i)簡易課税制度の事後選択

 基準期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者(免税事業者を除きます。)が、国内において行う課税仕入れ等を税率の異なるごとに区分することにつき困難な事情がある場合であって、平成29年4月1日から平成30年3月31日までの日の属する課税期間の末日までに、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を納税地を所轄する税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を認める措置が講じられます。

(ii)簡易課税制度に準じた方法の事後選択

 基準期間における課税売上高が5,000万円超である事業者が、平成29年4月1日から平成30年3月31日の属する課税期間の末日までの間に、国内において行う課税仕入れ等を税率の異なるごとに区分することにつき困難な事情がある場合であって、その課税期間の末日までに簡易課税に準じた計算を行う旨の届出書を納税地を所轄する税務署長に提出したときは、簡易課税に準じた方法により当該課税仕入れ等の税額の合計額を計算することを認める措置が講じられます。

実務上のポイント
 現在、簡易課税制度は、課税期間が開始する前に選択しなければなりませんが、今回の改正により、課税仕入れ等の管理ができない事業者については、その課税期間の末日までに選択が可能となります。


(2)適格請求書等保存方式(インボイス制度)

請求書等保存方式   区分記載請求書等保存方式   適格請求書等
保存方式
請求書等の記載事項
 ・請求書発行者の氏名又は名称
 ・取引年月日
 ・取引の内容
 ・対価の額
 ・請求書受領者の氏名又は名称
同左プラス
 ・軽減税率の対象品目である旨
 ・税率ごとに合計した対価の額

(注)  請求書の交付を受けた事業者による追記も可
同左プラス
 ・登録番号
 ・適用税率
 ・消費税額等

現行の請求書等保存方式における請求書等の保存に代えて、「適格請求書発行事業者」(仮称)から交付を受けた「適格請求書」(仮称)又は「適格簡易請求書」(仮称)の保存が、仕入税額控除の要件とされます。
(注)  上記の「適格請求書」とは、適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率、消費税額等の一定の事項が記載された請求書、納品書等の書類をいい、「適格簡易請求書」とは、小売業・飲食店業・タクシー業など不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合に認められ、登録番号及び消費税額等又は適用税率が記載事項となります。「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の事業者であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書を交付することのできる事業者として登録を受けた事業者をいいます。
適格請求書発行事業者登録制度が創設されます。
(注)  適格請求書発行事業者の登録については、平成31年4月1日からその申請を受け付けることとされます。
適格請求書発行事業者には、適格請求書の交付義務が課されます。
適格請求書を交付することが困難である一定の取引については、適格請求書の交付義務が免除されます。また、その取引に係る課税仕入れを行った事業者においては、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除が認められます。
適格請求書等保存方式の導入後一定期間については、免税事業者等から行った課税仕入れに係る消費税相当額に一定の割合を乗じて算出した額の控除を認める経過措置が講じられます(導入後3年間は80%、その後の3年間は50%)。

適用期日 上記(2)の改正は、平成33年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用されます。

実務上のポイント
 インボイス方式導入後は、免税事業者からの仕入れに関して、一定の経過措置が設けられた上で、将来的には仕入税額控除ができなくなるとされています。
 他に、請求書の交付については、次のような変更があります。

  現在〜区分記載請求書等保存方式
(〜平成33年3月31日)
適格請求書等保存方式
(平成33年4月1日〜)
請求書の交付義務 義務なし 義務あり
請求書の不正交付 罰則なし 罰則あり
免税事業者の(適
格)請求書交付
交付可→免税事業者からの仕入税額控除可能 交付不可→免税事業者からの仕入税額控除不可(経過措置あり)


【3】 軽減税率導入に必要な財源確保、導入後の状況の検証及び地方消費税について

(1) 軽減税率制度の導入に当たり、財政健全化目標を堅持し、安定的な恒久財源を確保するため、平成28年度税制改正法案において歳入及び歳出における法制上の措置などが講じられます。
(2) 軽減税率制度の円滑な運用及び適正な課税の確保の観点から、中小・小規模事業者の経営の高度化を促進しつつ、軽減税率制度の導入後3年以内を目途に、適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入に係る事業者の準備状況及び事業者取引への影響の可能性、軽減税率制度導入による簡易課税制度への影響、経過措置の適用状況などを検証し、必要と認められるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他必要な措置が講じられます。
(3) 消費税の軽減税率制度の導入に伴い、地方消費税についても所要の措置が講じられます。

 

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