目次 I-1


I.相続税・贈与税はこう変わる


1 相続時精算課税制度の創設

―受贈時は2,500万円まで非課税、2,500万円超部分は一律20%課税―

 高齢世代から若年層への資産移転を促進し、住宅投資などを活性化させるため、抜本的に相続税・贈与税の制度が見直されることになります。

 65才以上の親から20才以上の子への生前贈与の際に納めた贈与税は、親の死亡時に納める相続税額から差し引くことができるという、新しい制度――相続時精算課税制度――が創設されます。つまり、贈与税と相続税の課税を一体化して精算課税するという全く新しい仕組みの制度が平成15年1月1日から施行されることになっています。

 なお、生前贈与と遺産相続に別々に課税する現行制度も残り、新制度と現行制度のどちらを使うかは納税者が選択することになっています。また、今回の改正案では、相続税・贈与税についても最高税率が70%から50%に引き下げられ、税率の刻みについても累進課税が少しだけなだらかになります(I−2「相続税・贈与税の税率構造の改正」参照)。

 この改正案により、新制度を選択すると、生前贈与に係る贈与税率は非課税枠を超える部分について上記の贈与税率に代えて一律20%とされ、しかも非課税枠は2,500万円まで利用でき、贈与財産が2,500万円に達するまでは何度でも使えることになりますので、現行制度を適用する場合よりも多くのケースで税負担が軽くなります。ただ、現行の贈与税の非課税枠(年間110万円)は税務署への申請が必要とされていませんが、新制度を利用する場合は税務署に届け出る必要があります。

 新制度は亡くなった時点で相続税と贈与税の課税を精算する仕組みのため、相続時点では、遺産に過去に贈与を受けた資産も累計合算して相続税額を算出します。この時点の基礎控除(5,000万円+1,000万円×法定相続人数)の計算には変わりはありません。新制度の非課税枠を使って贈与を受けた財産も、相続時点ではまとめて相続税の課税対象とする代わりに、相続税額から過去に納めた贈与税額を差し引いて相続税を納めることになります。この際、過去に納税した贈与税額の方が大きい場合には、その差額が還付されることになります。

 例えば、過去に1,500万円の贈与と2,000万円の贈与を受け、死亡時に4,000円の資産を相続した場合(法定相続人は1人とします。)を想定しますと、現行の仕組みですと贈与税の非課税枠は1年間に110万円しかなく、1,500万円の贈与時に470万円、2,000万円の贈与時に720万円の税負担がかかり、相続税は非課税枠に収まるものの生前贈与税額は計1,190万円にもなります。一方、新制度を利用した場合は同様のケースですと、相続税額は計175万円となり、最終的に支払贈与税との差額の25万円が還付されます。(下の【図】参照)

適用期日 この改正は、平成15年1月1日以後の相続又は贈与から適用されます。

一口情報 毎年賃貸収入のある収益物件を贈与すれば効果大!
 例えば、賃貸集合住宅などの収益物件を建てて満室状態で贈与をすれば、贈与時の時価で評価されるため、現金のまま贈与するより評価額が大きく(3割〜5割程度)引き下げられます。また、その収益物件が将来にわたり生み続ける賃貸収入には贈与税がかからず、結果的には、賃貸収入による収益を無税で子に贈与したこととなります。(ただし、相続時における様々な要素もありますのでよく考えて選択実行することが大切です。)



【図】 新制度と現行制度の税額比較
 
【図】 新制度と現行制度の税額比較


〜相続時精算課税制度のしくみ〜

【1】相続時精算課税制度のあらまし

 生前贈与については、受贈者(子)の選択により、現行の暦年単位による贈与税制度に代えて、贈与時に贈与財産に対する相続時精算課税に係る贈与税(「贈与税」)を支払い、その後の相続時にその贈与財産と相続財産とを合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払ったその「贈与税」を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税をすることができる制度です。



【2】適用対象者

 本制度の適用対象となる贈与者及び受贈者はそれぞれ贈与をした年の1月1日において65才以上の親、同日において20才以上の贈与者の子である推定相続人(代襲相続人となる孫も含みます。)とされます。



【3】適用手続

 本制度の選択を行おうとする受贈者(子)は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に所轄税務署長に対して、その旨の届出を贈与税の申告書に添付することにより行います。

 この選択は、受贈者である兄弟姉妹がそれぞれ、贈与者である父、母ごとに選択できるものとし、最初の贈与の際の届出により相続時まで本制度は継続して適用されます。

注意点  最初の贈与につき新制度の適用申請をした場合は、2度目に贈与を行っても、現行の制度に鞍替えすることはできないということですので、その選択には様々なシュミレーションを考え、慎重に検討しなければなりません。

 ところで、この制度に関連して、相続税の申告に際し必要となる他の共同相続人等の贈与税の申告内容について、必要最小限の情報を相続人等の請求により税務署長が開示する制度が創設されます。

長男が父からの贈与について「相続時精算課税制度」を、長女は母からの贈与について「相続時精算課税制度」を選択した場合

注意点  父、母以外からの贈与については相続時精算課税制度を選択することはできません。


【4】適用対象財産等

 贈与財産の種類、金額、贈与回数には制限が設けられておりません。つまり、どんな種類の財産でもよいし、贈与金額には制限はなく、また、贈与回数も何回でもよいということですので、使い勝手はかなりよいということです。


【5】税額の計算

(1)贈与税額の計算〜非課税枠は2,500万円、超える部分は一律20%課税〜

 新制度を選択した受贈者(子)は、新制度に係る贈与者(親)からの贈与財産について贈与時に申告を行い、他の贈与財産と区分して、選択をした年以後の各年にわたるその贈与者(親)からの贈与財産の価額の合計額を基に計算した新制度に係る「贈与税」を支払うことになります。

 その「贈与税」の額は、選択をした年以後については、現行制度の基礎控除110万円は控除せず、上記の贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる累計で非課税枠2,500万円(特別控除)を控除し、その控除後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出するだけでよいことになっています。


注意点  なお、新制度を選択した受贈者(子)が新制度に係る贈与者(親)以外の者から贈与を受けた場合には、その贈与財産の価額の合計額から現行の基礎控除(110万円)を控除し、通常の贈与税の税率(新税率、I−2贈与税の税率改正を参照)を乗じて贈与税額を計算することになります。

(2)相続税額の計算

 新制度の選択をした受贈者(子)は、新制度に係る贈与者(親)からの相続時に、それまでの贈与財産と相続財産とを合算して現行と同様の課税方式(法定相続分による遺産取得課税方式)により計算した相続税額から、既に支払った新制度に係る「贈与税」相当額を控除します。その際、相続税額から控除しきれない場合には、その控除しきれない新制度に係る「贈与税」相当額について還付を受けることができます。

 なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の時価によることになっています。

夫婦子2人の家族で、被相続人(父)が遺産を残して死亡、なお、長男は父から、相続時精算課税制度に係る生前贈与を2回受けていた。

 

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