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IV.相続税・贈与税はここが変わる

―物納制度の見直し・相続時精算課税の住宅取得等資金特例の2年延長―


1 物納制度の見直し

 相続税の物納制度について手続の明確化・迅速化等の観点から、納税環境整備の一環として、(1)物納不適格財産の明確化、(2)物納手続の明確化、(3)物納申請の許可に係る審査期間の法定等、(4)延納中に延納困難となった場合に物納を認める制度の導入、(5)物納に係る利子税の整備等による利便性の向上等の見直しが行われます。

 イ 物納不適格財産の明確化等
 (1) 物納不適格財産
 管理処分不適格財産については、相続税法基本通達にその取扱いが明示されています。しかし、それはあくまでも例示にすぎずその取扱いが不明確なところがありました。今年の改正では、管理処分不適格要件に該当しなければ物納可能であることが明確化されます。物納不適格財産には次のものが考えられています。
国が完全な所有権を取得できない財産
抵当権付の不動産、所有権の帰属が係争中の財産など
境界が特定できない財産、借地契約の効力の及ぶ範囲が特定できない財産等
境界線が明確でない土地(ただし、山林は原則として測量不要)、借地権の及ぶ範囲が不明確な貸地など
通常、他の財産と一体で管理処分される財産で、単独で処分することが不適当なもの
共有財産、稼動工場の一部など
物納財産に債務が付随することにより負担が国に移転することとなる財産
敷金等の債務を国が負担しなければならなくなる貸地、貸家等
争訟事件となる蓋然性が高い財産
越境している建物、契約内容が貸主に著しく不利な貸地など
法令等により譲渡にあたり特定の手続が求められる財産で、その手続が行われないもの
証券取引法上の所要の手続が取られていない株式、定款に譲渡制限がある株式など
 (2) 物納劣後財産
 市場で処分しやすい財産の物納を優先することとし、他に物納適格財産がない場合に限り物納を認める財産が物納劣後財産として法令で規定されます。
 いままで物納申請後に不適格とされることのあった非上場株式や市街化調整区域内の農地や山林についても、一定の要件を満たせば物納ができることになります。
 その例として次のようなものがあります。
 法令の規定に違反して建築した建物及びその敷地
 地上権、永小作権その他の用益権の設定されている土地
 接道条件を充足していない土地(いわゆる無道路地)
 都市計画法に基づく開発許可が得られない道路条件の土地
 法令・条例の規定により、物納申請地の大部分に建築制限が課される土地
 維持又は管理に特殊技能を要する劇場、工場、浴場その他の大建築物及びその敷地
 土地区画整理事業の施行地内にある土地で、仮換地が指定されていないもの
 生産緑地の指定を受けている農地及び農業振興地域内の農地
 市街化調整区域内の土地等
10  市街化区域外の山林及び入会慣習のある土地
11  忌み地
12  相続人が居住又は事業の用に供している家屋及び土地
13  休眠会社の株式
 (3) 物納申請の却下及び再申請
 物納申請された財産が物納不適格財産に該当する場合、又は物納劣後財産に該当する場合であって他に物納適格財産を有するときは、税務署長は当該物納申請を却下します。
 この場合において、申請者は、当該却下の日から20日以内に、一度限り物納の再申請をすることができることとされます。
 ロ 物納手続 の明確化
 いままで物納申請を行ってから許可又は却下の通知があるまでに1年以上かかることもあり、却下の場合には、納期限の翌日から延滞税が課されてしまうことがありました。今年の改正では、このようなことがないように、原則3か月以内には通知をすることが明記されます。
 さらに審査に時間がかかることが多かった必要書類についても財産ごとに法定されることになり、審査の迅速化が図られ、より現実的に対応ができ易い物納制度となります。
 (1) 必要書類
 物納財産を国が収納するために必要な書類として、物納財産の種類に応じ、登記事項証明書、測量図、境界確認書、要請により有価証券届出書等を提出する旨の確約書等一定の書類を定めるとともに、申請者は、これらの書類を物納申請時に提出します。
 (2) 必要書類の補正命令等
 提出された物納手続に必要な書類の記載に不備があった場合又は物納手続に必要な書類の提出がなかった場合には、税務署長は、これらの必要書類の補正又は提出を申請者に請求することができることとされます。
 この場合において、請求後20日以内に物納手続に必要な書類について補正又は提出がされなかった場合には、物納申請を取り下げたものとみなされます。
 (3) 措置命令
 税務署長は、1年以内の期限を定めて、廃材の撤去その他の物納財産を収納するために必要な措置(物納を許可するために必要なものに限る。)を講ずべきことを申請者に請求することができることとされます。
 この場合において、期限内に当該措置がされなかった場合には、物納申請を取り下げたものとみなされます。
 (4) 申請者による期限の 延長等
 物納手続に必要な書類の準備や廃材の撤去等の措置に時間を要する場合には、申請者の届出により、上記(1)(2)又は(3)に係る期限を、上記(1)の場合には物納申請期限から、上記(2)及び(3)の場合には必要書類の補正等の請求があった日からそれぞれ最長1年間延長することができることとされます。
 ただし、一度の届出で延長できる期間は3か月までとし、期間満了時には、1年に達するまで、再届出により延長されます。
 (5) 条件付許可
 税務署長が物納を許可する際に、必要に応じ、後日において汚染地であったことが判明した場合に必要な措置を講ずること、有価証券を売却するために必要な書類を提出すること等の条件を付すことができることとされます。
 なお、その条件に違反した場合には、5年以内に限り、物納の許可を取り消すことができることとされます。
 ハ 物納申請の許可に係る審 査期間の法定等
 (1) 審査期間の法定
 (ア) 原則的な審査期間
 税務署長は、物納申請の許可又は却下を物納申請期限から3か月以内に行います。
 (イ) 例外的な審査期間  
 ただし、物納財産が多数となるなど調査等に相当の期間を要すると見込まれる場合には、6か月以内(積雪など特別な事情によるものについては、9か月以内)とすることができることとされます。
 (2) 必要書類の提出期限が延長された場合
 物納手続に必要な書類の提出期限が申請者の届出により延長された場合(上記ロ(4))における上記(1)の審査期間は、当該届出(当該必要書類が提出されたものに限る。)に係る延長期間の満了日から起算します。
 (3) 必要書類の補正等の求めがあった場合
 物納手続に必要な書類の補正若しくは提出の請求又は廃材の撤去等の措置の請求があった場合(上記ロ(2)及び(3))には、その補正若しくは提出又は措置に要する期間(上記ロ(4)により延長された期間を含む。)は、上記(1)の審査期間に算入しません。
 (4) 許可をしたものとみなされる場合
 上記(1)から(3)までの審査期間内に許可又は却下をしない場合には、物納を許可したものとみなされます。
 ニ 物納申請を却下された者 の延納の申請
 物納の許可を申請した者について、延納による納付が可能であることから物納申請の全部又は一部が却下された場合には、20日以内に延納の申請を行うことができることとされます。
 ホ 延納中の物納の選択
 相続税を延納中の者が、資力の状況の変化等により延納による納付が困難となった場合には、申告期限から10年以内に限り、延納税額からその納期限の到来した分納税額を控除した残額を限度として、物納を選択することができる制度が創設されます。
 この場合における物納財産の収納価額は、その物納に係る申請時の価額とされます。ただし、税務署長は、収納の時までにその物納財産の状況に著しい変化を生じたときは、収納時の現況によりその物納財産の収納価額を定めることができることとされます。
 へ その他所要 の措置
(1)  金銭又は延納による納付困難要件について、その判定方法が明確化されます。
(2)  物納財産の性質、形状、その他の特徴により、金銭による納付を困難とする金額(物納限度額)を超える金額の物納財産を収納することについてやむを得ない事情があると認められる場合には、税務署長は、当該財産の物納を許可することができることとされます。
(3)  物納により納付が完了されるまでの間について利子税の負担が求められます。ただし、審査事務に要する期間については、利子税が免除されます。

適用期日
上記の改正は、平成18年4月1日以後に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について適用されます。

 

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