目次 IV-8


8.評価会社(取引相場のない株式の発行会社)が
自己株式を所有している場合における株式評価上の留意点

Question
 取引相場のない株式の発行会社である評価会社の所有する各資産のうちに、商法第241条(議決権の数、自己株式・相互保有株式の議決権)第2項に規定する自己の株式(以下『自己株式』という。)がある場合には、当該評価会社の株式の評価に際してどのような点に留意する必要があるのか説明してください。

Answer
 取引相場のない株式の発行会社である評価会社の有する資産のうちに自己株式が存する場合における当該株式の相続税評価額算定上の取扱いについては、平成6年の商法改正を端緒として、自己株式を取得する機会が比較的増加したこともあり、これを明確化する必要がありました。そこで、平成12年6月13日付けの財産評価基本通達の改正(課評2−4他)により、評価会社が自己株式を所有している場合における取引相場のない株式の評価上の取扱いが明示されることになりました。

 今回の通達改正によって、その取扱いが明示された評価会社が自己株式を所有している場合の株式評価上の留意点は、下記のとおりとなります。

(イ)  評価上の株主区分(原則的評価・特例的評価)の判定
 取引相場のない株式の評価方法には会社支配(経営)を目的とした株式所有者に対する評価方式である原則的評価とこれとは無関係な単に配当金の受領を目的とした株式所有者(少数零細株主)に対する評価方式である特例的評価方式(配当還元評価方式)の2つの方式が存していますが、ある株主が取得した評価会社の株式がこのいずれの評価方式により評価されるのかは、当該評会社に対する株式の持株割合に基づいて判定されるものとなっています。

 この評価会社の発行済株式数の算定に際しては、財産評価基本通達188−3(評価会社が自己株式を有する場合の発行済株式数)の取扱いに基づいて、評価会社が自己株式を有する場合には、発行済株式数から自己株式の数を控除した数を評価会社の発行済株式数として取り扱って、評価上の株主区分(原則的評価・特例的評価)に係る持株割合を算定するものとされています。この取扱いを算式で示しますと次のとおりとなります。

 (算式) 株主区分判定上のその者の所有株式数又は一定の範囲の者の所有株式数の合計

評価会社の発行済株式数−自己株式の数

 なお、評価会社が次に掲げる株式を有する場合においても、上記に掲げる評価会社が自己株式を有する場合の取扱いと同様に、原則として、評価会社の発行済株式数からそれぞれに掲げる株式の数を控除した数を評価会社の発行済株式数として取り扱う旨の定めが、それぞれに掲げる財産評価基本通達において明示されています。

(1)  商法第241条(議決権の数、自己株式・相互保有株式の議決権)第3項に定める議決権を有しないこととされる会社の株式(相互保有株式)がある場合
財産評価基本通達188−4(議決権を有しないこととされる株式がある場合の発行済株式数等)

(2)  商法第242条(議決権のない株式、議決権の復活)第1項に定める議決権のない株式(配当優先株式)がある場合
財産評価基本通達188−5(議決権のない株式がある場合の発行済株式数等)

 上記のように、株主区分の評価上の判定に際して自己株式等の数を発行済株式数から控除することとしたのは、これらの自己株式等は議決権を有しないものとされており会社支配の強弱に基づいて行われる株主区分の判定に対しては、何らの影響力も有しないものと考えられるため、これらの自己株式等の数を除外したところにより持株割合の計算を行うのが相当であると考えられたためです。

(ロ)  会社規模区分の判定における総資産価額(帳簿価額)の取扱い
 評価会社の会社規模区分(大会社・中会社・小会社)を判定するための総資産価額は、財産評価基本通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)及び取引相場のない株式等の評価明細書に係る様式記載通達の取扱いから、課税時期に係る直前期末における各資産の確定決算上の帳簿価額の合計額をいうものとされており、当該各資産のうちに、自己株式が存するか否かは考慮の対象とはされていません。(したがって、自己株式があったとしても、当該自己株式の帳簿価額を含めたところで評価会社の規模区分を行うことができるものと考えられます。)

 このような取扱いを定めたのは、会社規模区分を判定するために総資産価額が使用されるものの、これにより決定されるのは評価会社の株式評価額そのものではなく、適用されるべき会社の評価方式を確定するための一基準にすぎないものであり、ある程度の簡便性が認められるべきであるという考え方に基づくものであると思われます。

(ハ)  類似業種比準価額等の計算上における取扱い
 類似業種比準価額を算定する場合の基礎とされる『1株当たりの資本金の額等の計算』に際しては、直前期末の資本金額及び発行済株式数については、当該評価会社に自己株式が存するか否かは考慮の対象とはされていません。(したがって、自己株式があったとしても、その存在に関係なく実際の課税時期に係る直前期末の資本金額及び発行済株式数を基にして計算するものとされています。)

 このような取扱いを定めたのは、類似業種比準価額方式においては、標本会社の各比準要素を算出する際の資本金額及び発行済株式数については、当該標本会社における自己株式の有無について確認することが困難であること及び同方式は課税時期の直前期末の状況に基づいて比較する等の評価の簡便性にも配慮した評価方式であること等によるものであると考えられます。

 

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