目次 II-7


7 課税要件と借用概念


Question  課税要件と借用概念の関係について教えてください。
ポイント

 租税法において民法など私法上の概念が取り込まれていることを借用概念と呼んでいる。
 借用概念が税法の課税要件に取り込まれている場合には、税法上の解釈が私法上の解釈と同一と解するのか、別個のものと解するのかが問題となる。
 課税要件を私法上の概念と一致させることは納税者に予測可能性、法的安定性を与えるが、その反面、税法解釈を硬直的にさせる欠点がある。




Answer

1 借用概念とは

 法人税や所得税などの租税法は、譲渡などの私法上の取引に着眼して課税又は徴税しています。また、そのすべてを自らの法律において概念規定せずに、民法などの私法上の概念をそのままあるいは若干変形して利用し、これを課税要件に取り込んでいます。このように、租税法において民法など私法上の概念が取り込まれていることを「借用概念」と呼んでいます。

 したがって、課税要件を考えるに当たっては、租税法だけでなく民法など私法上の概念を正確に理解することが重要となります。

 税務訴訟では、納税者と課税庁とが事実関係をめぐって争うことが少なくありません。そして、その理由の多くは、納税者の置かれている課税関係がその私法上の概念に該当するのかどうかが不明確であることに起因しています。つまり、租税法における要件事実論の理解は、その大半が借用概念の理解にかかっているということができるでしょう。


2 借用概念と税法上の概念との関係

 まず、借用概念が税法の課税要件に取り込まれている場合には、税法上の解釈が私法上の解釈と同一と解するのか、別個のものと解するのかが問題となります。

 課税要件を私法上の概念と一致させることは納税者に予測可能性、法的安定性を与える長所がありますが、その反面、税法解釈を硬直的にさせる欠点があります。逆に、課税要件を私法上の概念と別個のものと考えると納税者に予測可能性を与えないため、法的安定性が得られない短所がありますが、租税法の硬直性を緩和して目的論的に解釈できるメリットがあります。

 したがって借用概念の解釈に当たっては、納税者に予測可能性を与えるため、可能な限り課税要件を私法上の概念と一致させ、極めて限定された範囲において私法上の概念と別個のものと解すべきであると考えられます。

 すなわち、借用概念であっても税法の目的に照らして別個の観点から理解すべき場合や、別の意味に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合において、借用概念と私法上の概念と別個のものと解すべきと考えられるのです。

 具体的にはどのような場合が考えられるでしょうか。例えば、不法行為や公序良俗に反する行為などによって所得が発生した場合が典型的でしょう。これらの場合には、私法上はその効力が否定されます。だからといって、税務上はこれらの行為から生じた所得を無効にするわけではないのです。

 また、金融機関が解除条件付きの債権放棄をし、債権相当額を当該事業年度の損金の額に算入して青色申告した場合、私法上は債権放棄をしたこととされますが、税務上はこの部分について確定的に債権放棄がなされたかどうか判断が微妙なので、解除条件付きでは当該事業年度に損金の額が確定しているとはいえないなどとして課税庁が更正処分等をしたため、税務訴訟に持ち込まれたケースがあります(いわゆる日本興業銀行事件)。

 

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