目次 II-6


6 財産の取得時期と相続税・贈与税の課税時期


Question  財産の取得時期と相続税・贈与税の課税時期について教えてください。
ポイント

 法定申告期限から 3年又は5年経過した以後においては原則として更正又は決定ができないことを悪用した租税回避の事例がある。
 その一つが公正証書を使った書面による贈与である。
 また、自主占有による時効取得を使った相続である。
 いずれの事案も受贈者の認識に焦点を当て、課税庁勝訴となっている。




Answer

1 国税の更正・決定の期間制限を使った租税回避策

 国税通則法70条では、国税の法定申告期限から 3年又は5年を経過した日以後においては、原則として国税の更正又は決定をすることができない旨を定めています。この規定を悪用して、外形的には資産の移転を把握できない状態で資産を移転しつつ、国税の更正・決定の制限期間経過後に登記手続をすることによって贈与税又は相続税を逃れる目的の租税回避策が問題となっています。


2 公正証書を使った書面による贈与

 この手法は、不動産贈与契約公正証書による「贈与」を行い、国税の更正・決定の制限期間経過後に登記手続をするものです。不動産贈与契約公正証書(以下、「本件公正証書」といいます。)作成日において「贈与」があったと認められれば、国税の更正・決定の制限期間を経過しているから、贈与税の更正ができなくなるわけです。

 この件が争点となった名古屋地裁の判決(平成10年9月11日)では、上記の不動産贈与契約公正証書の作成目的と受贈者の認識に焦点を当て、単なる租税回避目的の書面にすぎないと評価し、本件公正証書によって書面による贈与がなされたものとは認められず、「書面によらない贈与の場合にはその履行の時に贈与による財産取得があったとみるべきであり、不動産が贈与された場合には、不動産の引渡し又は所有権移転登記がなされた時にその履行があったと解され、登記手続がなされた時点で不動産を贈与に基づき取得したとみるべきである」と判断しました。

 本件公正証書によって書面による贈与がなされなかった旨の課税要件事実は、本件公正証書の作成目的や受贈者の認識であり、間接事実としては受贈者が贈与税を支払ってまで本件不動産を受贈する意思がなかったこと、本件不動産の管理状況が挙げられます。


3 自主占有による時効取得を使った相続

 この手法は、被相続人の生前に土地の贈与を受けた旨及び、仮に贈与が認められない場合には自主占有による不動産の時効取得があった旨を主張し、これに基づく遡及的な所有権移転登記を求める裁判を起こした上で、この不動産を相続財産に含めないで申告する手法でした。

 まず、贈与の有無については、30年もの昔の受贈者自身及び受贈者の知人の供述に基づく乏しい証拠であること等により否認されました。

 次に本題の自主占有による時効取得ですが、「物の取得時効を主張する者は、民法162条では、所定の期間、所有の意思をもって物を占有したことを主張・立証すべきであるが、民法186条1項により、所有の意思が推定される。それ故、所有の意思を争う者において、所有の意思のない占有(他主占有)であることについて立証責任を負う。他主占有の立証方法は占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきである」1)とした上で、本件土地に対する占有は他主占有である旨認定しました。

 したがって、この場合の課税要件事実は所有の意思のない占有であったことであり、間接事実として受贈者が外形的・客観的に他人の所有権を排斥して占有する権原がないことや、固定資産税の支払状況など占有に関する事情を課税庁が立証すべきということです。

 

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