目次 II-5


5 通謀虚偽表示と課税関係


Question  他人名義を利用した場合の課税関係について教えてください。
ポイント

 他人名義を利用した場合の課税関係については、真実に対して課税することとなる。
 課税庁が他人名義による譲渡を課税要件事実として課税処分を行った場合には、納税者が再抗弁として当該事実を証明する必要がある。




Answer

1 仮装された取引についての課税関係

 強制執行を逃れるため、親戚などに不動産の名義を移す事例が見受けられます。この場合は真実の状態に対して課税されることが原則ですので、このような仮装取引については課税されないことになります。

 ところが課税庁は通常、当事者によって作出された外形が通謀虚偽表示なのかどうかを判断することが困難です。

 したがって、不動産・株式等の名義の変更があった場合などでは、課税庁が贈与税若しくは譲渡所得の課税処分をしてくるケースが考えられます。現に相続税法基本通達9−9では、「不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として扱う」とされています。

 これを受けて個別通達として、「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて(昭和39年5月23日付個別通達〔昭和57年5月17日改正〕)」が発遣されています。その通達の第1項において名義の借用が贈与にならない場合を次のとおり例示しています。

他人名義により不動産、船舶等を取得した場合で贈与としない場合
 他人名義により、不動産、船舶又は自動車の取得、建築又は建造の登記又は登録をしたため、相続税法基本通達9−9に該当して贈与があったとされるときにおいても、その名義人となった者について次の(1)及び(2)の事実が認められるときは、これらの財産に係る最初の贈与税の申告若しくは決定又は更正(これらの財産の価額がその計算の基礎に算入されている課税価格又は税額の更正を除く。)の日前にこれらの財産の名義を取得又は建築若しくは建造した者(以下「取得者等」という。)の名義としたときに限り、これらの財産については、贈与がなかったものとして取り扱う。(昭57直資2−177改正)
(1) これらの財産の名義人となった者(その者が未成年者である場合には、その法定代理人を含む。)がその名義人となっている事実を知らなかったこと。(その知らないことが名義人となった者が外国旅行中であったこと又はその登記済証若しくは登録済証を保有していないこと等当時の情況等から確認できる場合に限る。)
(2)
名義人となった者がこれらの財産を使用収益していないこと。 以下省略


2 要件事実論からの考察

 通達は課税庁内部の取扱いを定めたものにすぎない反面、名義の変更が虚偽のものであり、所有権移転などの実質がない場合には、税務訴訟に持ち込まれることを考えると、課税庁は適法に課税処分を行うことができません。

 このようなケースで、課税庁が課税処分を行った結果税務訴訟になった場合には、課税庁は抗弁として「不動産や株式の名義の変更があったこと」を立証してくることになります。

 これに対して納税者は、再抗弁として「不動産や株式の名義の変更は形式的なものであり名義借りにすぎないこと」を主張・立証していくことになります。

 

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