目次 II-3


3 相続税の各項目における主張・立証責任の分配


Question  相続税の各項目における主張・立証責任の分配について教えてください。
ポイント

 相続税の計算の第2段階までの項目についての主張・立証責任は原則として課税庁にある。
 各人ごとの相続税額のうち、加算事項についての主張・立証責任は原則として課税庁に、減算事項についての立証責任は原則として納税者にある。




Answer

 相続税の計算は大きく4段階に分けて行われます。

1 第1段階

 各相続人又は受遺者別に、相続又は遺贈(以下、相続等といいます。)によって取得した財産の価額の合計額から、被相続人の債務及び葬式費用のうちその者の負担に属する部分の金額を控除して求めた課税価格を計算します(相法11の2(1)、同13(1))。ここにおいて、相続等によって取得した財産の価額には、生命保険金等のみなし相続財産を含みますし、相続開始前3年以内に同一の被相続人から贈与を受けているときは、これを課税価格に含めます。

 前に述べたように課税標準の主張・立証責任は原則として課税庁にあるので、この段階における事項の主張・立証責任は課税庁にあります。


2 第2段階

 課税標準たる所得金額から社会保険料控除、医療費控除、雑損控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、損害保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦・寡夫控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除からなる所得控除を差し引くことによって、課税標準たる課税総所得金額、課税退職所得金額、課税山林所得金額(所法89(2))が計算され、これらに税率が適用されて税額が計算されます。


3 第3段階

 第2段階で計算した課税価格の合計額について、相続人が法定相続割合に応じて取得したと仮定した場合の金額に税率を乗じて計算した金額の合計額が相続税の合計額となります。


4 第4段階

 相続税の総額を、第1段階で把握した各人ごとの課税価格に応じて按分した金額が、各相続人及び受遺者ごとの相続税額となります(相法17)。

 このように計算した各相続人及び受遺者ごとの相続税額に対し、配偶者に対する税額軽減規定(相法19の2(1))、未成年者控除(相法19の3(1))、障害者控除(相法19の4(1))、相次相続控除(相法20)などの税額軽減規定による減算事項及び、相続等により財産を取得した人が被相続人の1親等の血族以外の場合における相続税額の加算(相法18)などの税額過重規定による加算事項を加減して、最終の相続税額を計算することになります。

 先にも触れたように、第3段階及び第4段階(相続税法17条による各相続人及び受遺者ごとの相続税額の計算まで)は、第2段階以前に現れた課税要件事実によって計算できるので、この計算過程までは課税庁が主張・立証責任を負っているといえます。

 更にその次の相続税額の加算事項と減算事項についての主張・立証責任ですが、これについては立証責任の分配の原理に従うことになります。すなわち、相続税額の加算事項は、これを立証しないことによる不利益は課税庁が被りますので、主張・立証責任は課税庁が負うことになります。逆に相続税の減算事項は、これを立証しないことによる不利益は納税者が被りますので、主張・立証責任については納税者が負うことになります。

 

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