目次 II-2


2 所得税の各項目における主張・立証責任の分配


Question  所得税の各項目における主張・立証責任の分配について教えてください。
ポイント

 10種類の所得の金額を算出するのに必要な課税要件事実は、課税庁が主張・立証責任を負うのが原則である。
 所得控除のうち、人的控除については課税庁が主張・立証責任を負うのが原則である。
 所得控除のうち、人的控除以外のもの及び税額控除、源泉徴収税額、予定納税額については納税者が主張・立証責任を負うのが原則である。




Answer

1 所得金額と主張・立証責任の分配

(1) 課税所得計算の概要

 所得税においては量的担税力に応じ、課税の公平性を保つため、所得を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得、一時所得、雑所得、山林所得、退職所得の10種類の所得に区分し、一定のルールにより合算して求めた総所得金額、山林所得金額、退職所得金額(所法22)からなる課税標準を求めます。

(2) 課税所得構成要素の主張・立証責任の分配

 これら10種類の所得の金額を算出するのに必要な課税要件事実は、課税庁が主張・立証責任を負うのが原則です。すなわち、課税所得が収入金額から必要経費を差し引くことで得られるという所得税の法文の構造から考えると、課税庁側が一義的に、課税標準を構成する収入の額及び必要経費の額の各内容を主張・立証しなければならないことになります。そして、要件事実論からは租税政策上の理由から、所得税の特例が定められた規定については納税者有利になるかどうかで主張・立証責任の分配がなされることになります。当然、納税者有利となる規定に係る課税要件事実の主張・立証責任は納税者が負担することとなりますし、納税者不利になるような規定の課税要件事実の主張・立証責任は課税庁が負担することになります。


2 所得控除・税額控除、源泉徴収税額、予定納税額と主張・立証責任の分配

(1) 税額計算の概要

 課税標準たる所得金額から社会保険料控除、医療費控除、雑損控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、損害保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦・寡夫控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除からなる所得控除を差し引くことによって、課税標準たる課税総所得金額、課税退職所得金額、課税山林所得金額(所法89(2))が計算され、これらに税率が適用されて税額が計算されます。

(2) 所得控除の主張・立証責任の分配

 これら所得控除と主張・立証責任の分配については、所得控除については納税者の人的性格に基づいて控除額が定められる人的控除と、対象となる支出をしたことによって控除額が定められる物的控除に分けて考えることとします。
 前者は納税者の人的性質に着眼して所得控除がなされ、経費を支出したかどうかに関わらず控除されるものですから、課税庁が主張・立証責任を負担することになります。後者は対象となる支出をしたことによって所得控除の対象とされるものであり、納税者有利となる項目であることから、納税者が主張・立証責任を負担することになります。

(3) 税額控除の主張・立証責任の分配

 次に配当控除、住宅借入金等特別控除、政党等寄附金特別控除、試験研究費が増加した場合等の税額控除等からなる税額控除と主張・立証責任の関係を見てみましょう。これらの税額控除は租税債権の消滅事由に該当しますので、納税者が主張・立証責任を負担することになります。

(4) 源泉徴収税額等の主張・立証責任の分配

 最後に災害減免額、源泉徴収税額、予定納税額と主張・立証責任の関係についても、これらが租税債権の消滅事由に該当し、納税者有利の規定となりますので、納税者が主張・立証責任を負担することになる点は、税額控除のケースと同様です。

 

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