目次 II-1


 II 租税法における要件事実各論


 1 税務訴訟と立証責任


1 法人税法の各項目における立証責任の分配


Question  法人税法の各項目における立証責任の分配について教えてください。
ポイント

 損金の額を決定付ける事実の立証責任は、原則として課税庁にある。
 租税特別措置法上の特別な減価償却制度や資産の評価損失の計上などの特例的な税額軽減規定についての立証責任は、原則として納税者にある。




Answer

1 基本的な考え方

 法人税の課税標準は「各事業年度の所得の金額」とされ、その計算方法は当該各事業年度の益金から損金を差し引く形で規定されています(法法22(1))。

 各事業年度の所得の計算上当該事業年度の益金に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とされます(法法22(2))。

 また、損金に算入すべき金額は別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の売上原価、完成工事原価その他これに準ずる原価の額、販売費及び一般管理費その他の費用、損失の額で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の損失の額とされます(法法22(3))。

 法人税においては確定決算主義を採用し、課税標準を構成する益金の概念及び損金の概念については税法で特別に規定することはしないで、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下、「公正処理基準」といいます。法法22(4))に委ねられています。したがってこの法文の構造から考えると、法人税に係る所得の主張・立証責任については、課税庁側が一義的に課税標準を構成する益金の額及び損金の額の各内容を立証しなければならないことになります。この部分については課税庁サイドに主張・立証責任があるわけです。

 そして、法人税法22条2項及び3項にいう「別段の定めのあるもの」については、申告調整がなされることになります。公正処理基準により算出した金額は課税庁が主張・立証すべき内容ですが、申告調整に属する内容についてはこの例外事項に属します。

 したがって、要件事実論からは、納税者有利となる「益金不算入項目」や「損金算入項目」については納税義務者である法人が負担し、納税者不利となる「益金算入項目」や「損金不算入項目」については課税庁が負担することになります。また、「税額控除」については納税者有利となる規定ですので、法人が主張・立証責任を負担することとなります。


2 具体的な適用

 原則として要件事実論の主張・立証責任の分配は、公正処理基準から納税者有利になるかどうかにより、下表のようになされます。

項    目 主張・立証責任 コメント
受取配当金の益金不算入 法人  
法人税の還付金の益金算入 課税庁  
引当金の洗替えによる益金算入 課税庁  
売上原価その他経費 課税庁  
減価償却費・償却費 課税庁  
資産の評価損失 法人 評価損失は例外規定
貸倒損失 課税庁・法人 結論は分かれる
圧縮記帳による損金計上 法人  
交際費 課税庁  
使途不明金 課税庁  
租税特別措置法上の特別控除 法人  
同族会社の留保金課税 課税庁  
同族会社の行為否認 課税庁 客観的に異常な価額での取引である旨。

 

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