目次 I-12


12 違法な質問検査権の行使と課税処分との関係


Question  違法な質問検査権の行使によってなされた課税処分の違法性について教えてください。
ポイント

 税務調査が違法になされた場合、それによって被った損害に対する国家賠償請求の問題と、更正等の課税処分取消事由になるかどうかの問題が生じる。
 税務職員には「調査について必要があるとき」に質問検査権が認められる。
 「調査について必要があるとき」の解釈については見解が分かれるが、必要性の判断には客観性を要するとされている。
 違法な質問検査権に基づく課税処分が違法になるかどうかは、争いがある。




Answer

1 税務調査の適法要件

 税務調査が違法になされた場合、それによって被った納税者の損害に対する国家賠償請求の問題と、更正等の課税処分取消事由になるかどうかの問題が生じます。

 まず、税務調査は、税務職員による質問検査権の行使によって更正・決定及び賦課決定を行うための課税要件事実に関する資料を入手することを目的に実施されます。そして、税務職員にはこの資料の入手を容易にするため、「調査について必要があるとき」に質問検査権が認められています(所法234、法法153以下、相法60)。


2 「調査について必要あるとき」とは

 質問検査権の適用要件である「調査について必要があるとき」ですが、この解釈には争いがあります。課税庁は、過少申告であると認める相当な理由の有無にかかわらず質問検査権の行使が認められるとしていますが、質問検査権の行使が税務職員の自由裁量に委ねられると解釈するのは、課税庁に過大な質問検査権の行使を許容することになり妥当ではないと考えられます。そこで最高裁昭和48年7月10日決定では「当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等の具体的事情に鑑み、客観的な必要があるとき」とし、必要性の判断には納税者が提出した申告書の申告内容について真実性・正確性を疑わせるような客観性・合理性が必要であることを明らかにし、一定の判断を示しました。


3 違法な質問検査権に基づく課税処分は違法になるか

 税務職員による質問検査権が適正に行使された結果なされた課税処分は適法ですが、違法になされた質問検査権に基づいてなされた課税処分について違法になるかどうかについても争いがあります。

 税務職員による質問検査権の行使は、課税処分のための間接強制を伴う任意調査です。したがって、その行使に当たっては被調査者の同意が前提になります。このことから、「質問検査権行使に当たり調査官の行為が違法とされる場合とは、(1)納税者の同意又は承諾を得ていないため任意性が欠如したもの、(2)税務職員の裁量権の逸脱・濫用などが該当するもの」と考えられます。

 税務調査が課税処分の要件にならないとして、税務検査の違法が課税処分の適否に一切影響を及ぼさないというのはあまりにも課税庁サイド寄りで、行政手続の適正性確保の観点から妥当ではありません。かといって、軽微な税務検査の違法であっても課税処分の違法に直結するというのも、課税の公平という観点からは妥当ではありません。

 そこで判例では、調査を欠くなどの違法性の程度が著しい場合や、住居のプライバシーを令状なく侵害する等、任意調査として許容される程度を著しく逸脱した重大な違法が存した場合などについて、違法になされた質問検査権の行使によるものとして課税処分を取り消した場合があります。

 

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