目次 I-11


11 消費税更正処分取消請求訴訟における仕入税額控除の取扱い


Question  消費税更正処分取消請求訴訟における仕入税額控除の取扱いについて教えてください。
ポイント

 消費税法では、課税標準たる課税売上高から計算した消費税額から、控除税額を控除するという計算の規定のしかたをしており、法人税や所得税における所得課税における規定のしかたとは根本的に異なる。
 1より、課税庁が抗弁として主張・立証すべき範囲は、課税標準額たる課税売上高に限定される。
 課税仕入額の主張・立証責任は、仕入税額控除の再抗弁として納税者に課せられる。
 仕入税額控除のため必要な帳簿・請求書等の保存義務は、法人税や所得税の場合に比べて立証責任との関係で厳しいものになっている。




Answer

1 消費税の計算構造

 消費税法では、課税標準たる課税売上高から計算した消費税額から、仕入れに係る税額を控除する計算体系を採っています(消法30)。これに対して、法人税における課税標準は「所得の金額」であり(法法21)、その金額は益金から損金を差し引いて計算されます(法法22(1))。また、所得税における課税標準は総所得金額等であり(所法22(1))、その総所得金額の一つを構成する事業所得は収入金額から必要経費を差し引いたものとされています(所法27(2))。

 すなわち、法人税や所得税における損金や必要経費が課税標準を算出する際の控除項目であるのと異なり、消費税における仕入税額控除は、課税標準から差し引くものとして法文上規定されているのです。この法文上の規定のしかたの違いは、主張・立証責任の分配に大きな影響を与えます。


2 仕入税額控除の主張・立証責任の分配

 消費税更正処分取消請求訴訟において課税庁が抗弁として主張・立証すべき範囲は課税標準額たる課税売上高に限定され、課税仕入額の主張・立証は、仕入税額控除の再抗弁として納税者に課せられます。

 これに対して法人税や所得税の場合では、損金や必要経費は課税所得の構成要素として算出の際に取り込まれていますので、課税庁がこの部分についても抗弁として主張・立証責任を負う点で、消費税の場合とは根本的に異なります。


3 帳簿及び請求書等の保存の主張・立証責任

 消費税法30条7項では、仕入税額控除について帳簿及び請求書等の保存がない場合には適用しないと規定し、帳簿及び請求書等の保存がないことが仕入税額控除の消極要件であることを示しています。

 これを主張・立証責任分配論で考えた場合、仕入税額控除を主張する納税者は、仕入税額控除の積極要件として、課税仕入れの存在とこれに対応する消費税の発生の事実を主張・立証すべきこととなり、課税庁が仕入税額控除の消極要件である帳簿及び請求書等の不存在を主張・立証することになります。

 そして、これに対して帳簿及び請求書等の保存ができなかったやむを得ない事情があり、納税者がその事情を証明した場合に、消費税法30条7項本文に規定された仕入税額控除の消極要件の効果が消滅し、積極要件の立証により仕入税額控除が肯定されることとなります。

 ところが、このやむを得ない事情を主張・立証すべき責任は納税者にありますので、帳簿及び請求書等の保存がなかった旨を課税庁が立証した場合には、納税者側の反論としては、帳簿及び請求書等の保存がなかったという事実自体を否認するか、やむを得ない事情を主張・立証するしかありません。税務訴訟において問題となりがちなのはこの前者の問題であり、具体的には、どのような状態にあれば帳簿等の保存があったとされるのかという点です。

 

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