目次 II−6


6 各関連団体の敵対的買収防衛策についての基本的な考え方

1 企業価値研究会

 平成17年5月27日、経済産業省と法務省が共同でまとめた「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」が公表されました。実務的には、この指針に従って、敵対的買収防衛策が検討されています。

目的: 敵対的買収に対する防衛策は、適正に用いられれば企業価値、ひいては、株主共同の利益の向上に役立つものになる一方で、慎重に設計しなければ経営者の保身に使われ非効率な経営が温存される可能性も高いため、こうしたルール不在の状況を放置すれば、奇襲攻撃や過剰防衛が繰り返され、本来は企業価値の向上に寄与するメカニズムである買収の効果が十分発揮されないこととなりかねない。
 指針は、現在考えられている典型的な買収防衛策を念頭に置いて、適法で合理的な買収防衛策のあり方を提示し、買収に関する公正なルールの形成を促すことを目的としている。
 買収防衛策は、企業価値、ひいては、株主共同の利益を確保し、または向上させるものとなるよう、以下の原則に従うものとしなければならない。


1 企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則について

 買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益(以下、単に「株主共同の利益」という)を確保し、または向上させる目的をもって行うべきである。(注1)(注2)

 株式会社は、従業員、取引先など様々な利害関係人との関係を尊重しながら企業価値を高め、最終的には、株主共同の利益を実現することを目的としている。

 買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として乱用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、株主共同の利益を害する。また、買収の態様によっては、株主が株式を売却することを事実上強要され、または、真実の企業価値を反映しない廉価で株式を売却せざるをえない状況に置かれることとなり、株主に財産上の損害を生じさせることとなる。

 したがって、株式会社が、特定の株主による支配権の取得について制限を加えることにより、株主共同の利益を確保し、向上させることを内容とする買収防衛策を導入することは、株式会社の存立目的に照らし適法かつ合理的である。

(株1) 株主共同の利益を確保し、向上させる防衛策の代表的なものとしては、次のようなものが考えられる。

(1)  次の[1]から[4]までに掲げる行為等により株主共同の利益に対する明白な侵害をもたらすような買収を防止するための買収防衛策

  [1]  株式を買い占め、その株式について会社側に対して高値で買取りを要求する行為

  [2]  会社を一時的に支配して、会社の重要な資産等を廉価に取得する等会社の犠牲の下に買収者の利益を実現する経営を行うような行為

  [3]  会社の資産を買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する行為

  [4]  会社経営を一時的に支配して会社の事業に当面関係していない高額資産等を処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるか、一時的高配当による株価の急上昇の機会をねらって高値で売り抜ける行為

(2)  強圧的二段階買収(最初の買付で全株式の買付を勧誘することなく、二段階目の買付条件を不利に設定し、あるいは明確にしないで、公開買付等の株式買付を行うことをいう)など株主に株式の売却を事実上強要するおそれがある買収を防止するための買収防衛策

(3)  株主共同の利益を損なうおそれがある買収の提案であるにもかかわらず、株主が株式を買収者に譲渡するか、保持し続けるかを判断するために十分な情報がないなど株主が当該提案を判断することが困難な場合に買収者に情報を提供させたり、あるいは、会社が買収者の提示した条件よりも有利な条件をもたらしたりするため、必要な時間と交渉力を確保するための買収防衛策

(株2) 第一の原則に関連しては、例えば、経営者が特定の買収者からの買収提案に賛成している場面において、他の買収者が出現したときは、取締役は、善良な管理者として、当該買収者の競合提案も検討することが求められる。会社が、株主から買収者による競合提案を検討する機会を完全に奪うような買収防衛策を発動することは、合理的な理由がない限り、適当でない。


2 事前開示・株主意思の原則について

 買収防衛策は、適法性及び合理性を確保するために、導入に際して目的、内容等が具体的に開示され、株主等の予見可能性を高めるとともに(事前開示の原則)、株主の合理的な意思に依拠すべきである(株主意思の原則)。

(1) 事前開始の原則について

 買収防衛策は、株主や投資家、買収者などの予見可能性を高め、株主の適正な選択の機会を確保するために、導入に際してその目的、買収防衛策の具体的な内容、効果(議決権の制限・変更、財産的権利への影響等を含む利益及び不利益)などを具体的に開示すべきである。(注)

(注) 具体的には、買収防衛策を導入しようとする会社が、商法・証券取引法等の法令や証券取引所の規則で定められた最低限の開示ルールに従うだけではなく、営業報告書や有価証券報告書などを活用して自主的に買収防衛策の開示に努めることも、買収防衛策の適法性を高めるとともに、株主や市場関係者の理解を得る上で極めて重要である。

 また、買収防衛策の導入に際しては「何を防衛するのか」、「そのためにどのような買収防衛策を導入するのか」といった点に関して、株主や投資家、さらには従業員などの利害関係人に訴えかけていくことも重要である。企業価値を生み出す源泉が何であり、株主還元政策や事業戦略の充実など企業価値を高める具体的な経営戦略とはどういうものかといった点を、IR活動を通じて浸透させていくことが求められる。多くの機関投資家は、長期的な株主価値の向上に関心がある。買収の開始前から買収防衛策を導入する過程で、長期的な経営戦略に関して、株主や投資家の理解と納得を得ていく努力を講じることが必要となる。


(2) 株主意思の原則について

  [1] 株主総会の決議に基づき導入する場合

 株主総会は、株式会社の実質的所有者である株主によって構成される最高意思決定機関として、株主共同の利益の保護のために、定款変更その他の方法により買収防衛策を導入することができる。定款による株式譲渡制限はその最たるものであるが、第三者に対する特に有利な条件による新株・新株予約権の発行も株主総会の特別決議を経れば適法とされ、また、法律上特別決議が必要な事項よりも株主に与える影響が小さい事項であれば、株主総会の普通決議等により買収防衛策を採ることも株主による自治の一環として許容される。

[2] 取締役会の決議で導入する場合

 株主総会で選任された取締役が、選任者である株主の構成を変動させるために買収防衛策を採ることは、法律が予定している権限分配と整合的ではないものの、意思決定機関としての株主総会は機動的な機関とは言い難いから、取締役会が株主共同の利益に資する買収防衛策を導入することを一律に否定することは妥当ではない。

 取締役会の決議により買収防衛策が導入された場合であっても、株主の総体的意思によってこれを廃止できる手段(消極的な承認を得る手段)を設けている場合には、株主意思の原則に反するものではない。


3 必要性・相当性確保の原則について

 買収防衛策は、株主共同の利益を確保し、向上させるためのものであるが、買収防衛策における株主間の異なる取扱いは、株主平等の原則や財産権に対する重大な脅威になりかねず、また、買収防衛策が株主共同の利益のためではなく経営者の保身のため乱用されるおそれもある。

 こうした買収防衛策による弊害を防止することは、その適法性及び合理性を確保する上で不可欠である。このため、買収防衛策は、株主平等の原則、財産権の保護、経営者の保身のための乱用防止等に配慮し、必要かつ相当な方法によるべきである。(注)

(注) 取締役会は、買収防衛策を発動するに際しては、株主共同の利益に対する脅威が存在すると合理的に認識した上で(防衛策発動の必要性)、当該脅威に対して過剰でない相当な内容の防衛策を発動しなければならない。こうした判断にあたっては、外部専門家(弁護士、フィナンシャル・アドバイザーなど)の分析を得るなど、判断の前提となる事実認識などに重大かつ不注意な誤りがない、合理的な判断過程を経た慎重な検討が求められる。こうした慎重な検討は、取締役のし意的判断を排除する可能性を高める効果があり、買収防衛策の公正性を高める上で必要である。



2 東京証券取引所

 東京証券取引所は、平成17年4月21日に 「敵対的買収防衛策の導入に際しての投資家保護上の留意事項について」の概要を公表しています。

1 株主・投資者に対して「十分な適時開示」が行われること

  [1] 防衛策導入の目的

  [2]  防衛策の発動、解除および維持の条件(行使条件、価格、発行される株式数など)

  [3]  発動時に株主・投資者に与える影響など(株主の経済面、権利面に及ぼす影響や必要となる手続など)

  [4]  その他必要に応じて取引所が求める内容の開示


2 防衛策の発動・解除・維持の条件が不透明でないこと

 防衛策の発動、解除等の条件があらかじめ定められ、適切に機能するスキームである必要がある。


3 防衛策の株主平等性

 ライツプランの内、導入時点の株主に新株予約権を割り当てるようなスキームでは、防衛策発動後の(権利が割り当てられない)株主において、著しい損害の可能性がある。


4 株主の意思表示が機能すること

 デットハンド型(買収者を含む株主の意思に基づいて取締役が解任された場合においても、なお解除することができない防衛策)は不適当。



 また、平成18年1月24日に「買収防衛策の導入に係る上場制度の整備等について」を公表し、上場会社が買収防衛策の導入にあたって尊重すべき事項を明らかにし、尊重義務違反に対する公表措置などの実効性確保のための措置を新設し、上場制度の整備を実施しています。

 上場会社による買収防衛策の導入にあたっては、円滑な判断が可能となるよう、当該買収防衛策を開示する前に取引所に事前相談することが要請されています。


3 企業年金連合会

 厚生年金連合会は、平成17年4月28日に「企業買収防衛策に関する議決権行使の判断基準」を公表し、平成17年6月から適用しています。

 判断基準は、次のとおりです。

(判断基準)

(1)  連合会は、平時における、以下の条件を満たすライツ・プランの導入に賛成する。

  [1] 導入が長期的な株主価値の向上に資するものであることについての十分な説明があること

  [2]  株主総会の承認を得ること

  [3]  有事における防衛策の発動、解除及び維持について、当該企業と利害関係を一切有しない社外取締役等によるチェックが行われること。または、防衛策の発動、解除及び維持の具体的な条件が明確に定められており、経営者の恣意的な判断で決定される余地がないこと

  [4]  期間を限定したものであること(2〜3年)。更新する場合には、改めて株主総会の承認を求めること


(2)  黄金株や複数議決権行使株の発行、デッドハンド型(買収者を含む株主の意思に基づいて取締役が解任された場合でも、解除できない防衛策)の防衛策などその他の防衛策については、株主利益を損なうおそれがあるので、原則として賛成できない。
 

 企業側に防衛効果の高い黄金株、デットハンド型の防衛策等については、株主の利益を損なうことになるので、賛成できないとなっており、会社法では、導入可能であっても、上場会社では慎重に検討せざるを得なくなっています。

 

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