目次 第1章 第1節 2


設例3  通常成立すると認められる価額

 相続した土地を路線価に基づき評価して申告しました。その後、納税資金確保のためにこの土地を売却しましたが、申告した評価額を下回る価額でしか売れませんでした。このため、実際の売買価額をもって更正の請求を行おうと考えていますが、「現実に成立した売買価額」であることから、この請求は必ず認められるでしょうか。


解 説

 現実に取引の過程を経て成立した具体的な売買価額と、いわば未知数である時価を求めるための評価方法を適用して算定された評価額を比較した場合、常識的に考えれば、現実の売買価額が優先すべきものとも考えられます。

 しかし、単純にこのような結論に至ることはないと思われます。なぜならば、評価通達で規定する時価とは、不動産鑑定評価基準でいう正常価格に相応するものです。そして、この正常価格とは前記のとおり「売り進みや買い進み等の特別の事情がない状況」で成立する価格をいいますが、相続税等の納税資金の確保のための売買には、往々にして「売り進み」という特殊な状況の下で成立した価格である可能性があるからです。

 したがって、現実の売買価格によって申告や更正の請求をする場合には、単に成立した売買価格を根拠とするだけではなく、「売り進みや買い進み等の特殊な条件がない」状況で成立した正常価格の要件を満たすものであることを明らかにする必要があると考えられます。

 

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