目次 II-1


 II 相続税の税務調査の種類


1 任意調査と強制調査

(1) 税務調査は確認行為

 「国民は法の定めるところによりその納税の義務を負う」(憲法30条)とされています。そして、我が国では、納税者が自ら正しい申告を行って税金を納付する申告納税制度を採っており、この制度を円滑に運営していくため税務調査が行われます。つまり、税務調査は納税者が提出した申告が税法に準拠して正しく行われているかどうかを、税務署員が実地に臨場して調査をする確認行為です。


(2) マル査以外は任意調査

 税務調査というと、強制調査(通称・マル査)をイメージされる方が多いかもしれませんが、通常の税務調査は、確認のために行われるものであり、納税者の同意を基としたいわゆる任意調査と位置づけられています。任意調査に関しては、各税法に規定されており、相続税法では第60条において「国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、相続税若しくは贈与税に関する調査又は相続税若しくは贈与税の徴収について必要があるときは、納税義務者等に質問し、又は納税義務者等の財産若しくはその財産に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる。」とされています。

 しかし、任意調査においても不答弁(税務署員の質問に対して答弁しないこと)、及び検査拒否等(例えば、税務署員の帳簿検査について帳簿を見せない等)については、罰則が規定されています。刑事犯においては自らの不利になることについての証言拒否など被疑者の不答弁が認められていますが、税務調査については調査受認義務が課せられています。


(3) マル査は強制調査

 不正の手段を使って故意に税を免れた者には、社会的責任を追及するため、正当な税を課すほかに刑罰を科すことが税法に定められています。こうした者に対しては、任意調査だけではその実態が把握できないので、強制的権限をもって犯罪捜査に準ずる方法で調査し、その結果に基づいて検査官に告発し、公訴提起を求める制度(査察制度)が設けられています。この査察制度は、国税犯則取締法に基づいて行われる質問・調査・領置であり、裁判所の許可を得て臨検・捜索・差し押さえを行うこともできます。なお、その執行には、各国税局に配置された国税査察官が当たることになっています。

 査察事案についてはしばしば、検察庁へ告発ということが考えられますが、税務調査から検察への告発ということはありません。仮に、調査の過程で、刑事罰の対象になる事実を調査官が発見した場合でも、調査官がこれを告発すべきか否かは問題のあるところです。すなわち、調査官は厳しい守秘義務が課されており、公務員の告発義務と守秘義務とは税務調査においては守秘義務が優先すると考えられるからです。

 したがって、通常の調査では確認できないような悪質で大口な脱税案件などの場合には、国税犯則取締法による強制調査が行われることとなります。通常の税務調査は、指導調査であり正しい申告の指導が目的です。不必要に、警戒したり恐れたりすることはありません。

 

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