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 8 遺産分割に関するQ&A

(1)遺産分割のやり直しはできますか?

 相続人全員での遺産分割協議が整い、相続税の申告を済ませました。ところが、その後相続人の一人が分割のやり直しをしたいと言い出しました。遺産分割のやり直しは認められるのでしょうか。

 成立していた遺産分割協議の全部又は一部を合意解除して、もう一度分割協議をすることは可能です。しかし、税務では、遺産分割のやり直しは、贈与又は交換をしたものとして取り扱われます。贈与税や譲渡税の負担が生じ、相続税と合わせて二重の税負担となるため、なるべく避けたいものです。遺産分割は慎重に進めましょう。


(2)借入金が残っている賃貸物件は配偶者が相続すると有利?

 父が遺した遺産の中に賃貸マンションがあり、その借入金も残っています。相続税の節税効果が大きいので、2次相続でも節税に役立つよう、配偶者が相続するのがベストだと思っているのですが、この考え方は正しいでしょうか。

 2次相続を見据えた分割方法としては、配偶者は評価が下がりやすい財産を相続し、逆に評価が上がりやすい財産は子が相続するようにします。

 この考え方によれば、賃貸マンションは月々収入が入ってきますし、借入金は減少していきますから、1次相続(今)における評価額よりも2次相続(将来)における評価額の方が高くなる財産と見ることができます。したがって、賃貸マンションは配偶者が相続するのではなく、子が相続した方が良いでしょう。


(3)税額がゼロの場合の分割は?

 父が亡くなりました。相続税の計算をしてみたところ、遺産の総額が基礎控除を超えることはなさそうです。相続税がかからない場合に、分割で気を付けることはありますか。

 税額がゼロであれば、基本的にどのような分割をしても税金の有利不利はありません(一部例外あり。(4)参照)。配偶者がいる場合、2次相続における節税を考慮するのであれば、できるだけ子世代へ渡してしまう方が有利でしょう。また、孫を養子にしている場合には、通常は税額が2割増しになりますが、そもそも税額がゼロであれば割増しもありませんから、より先の世代である孫が相続すると、税金上有利です。

 ただし、税金が有利となる分割が最適な分割とは限りません。例えば、配偶者には自宅の不動産や生活に困らない程度の金融資産は相続していただくなど、安心して暮らしていけるための配慮は必要でしょう。これは節税よりも大事なことです。


(4)債務が多い場合の留意点

 父が亡くなりました。相続税の計算をしてみたところ、財産は多いもののマンションの借入金が多額に残っており、遺産の総額が基礎控除を超えることはなさそうです。この場合、遺産分割で気を付けることはあるでしょうか。

 遺産が基礎控除以下であれば、基本的にはどのような分割をしても相続税に影響はないはずですが、相続する財産よりも承継する債務のほうが多い相続人がいると、そのマイナス分は他の相続人の財産から控除できないため、相続税が発生する場合があります。債務がある場合には分割方法に注意が必要です。

 仮に、遺産が、預貯金1億円、不動産1億円、借入金が2億円であると、財産の合計額と借入金が同額のため、相続税は課税されないように思えます。しかし、母が預貯金、子が不動産と借入金を相続すると、子の債務の超過分が切り捨てられ、課税価格の合計額が基礎控除を超えることになります。

 

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