目次 IV-1


IV.転籍をめぐる法人税


1 転籍前の法人が一部負担する転籍者の給与(1)


Question

 当社(転籍前法人)から関係会社(転籍先法人)へ転籍した元従業員の給与について、転籍に関する協定により、2年間に限り当社と当該関係会社の支給額の差額を関係会社へ補償負担金として支払い、当該従業員には当社並みの給与を支給することとしています。税務上問題はありませんか。



Answer

 転籍者に対する給与較差補てん金については、一定の経済的合理性があれば寄附金とならないケースもあると考えます。


 ◆転籍者に対する給与較差補てん金は贈与になるのか

 転籍前・後の法人において給与の支給額に相当の較差がある場合は、転籍について容易に使用人の同意が得られないことがあり、ご質問のような協定を行っている事例があるようです。転籍者は転籍前法人との雇用関係が消滅しますから、給与は全額転籍後の法人から支給されるべきです。したがってご質問のような補償負担金は、転籍前法人による転籍後法人の費用の肩代わりであり、贈与とみられてもやむを得ないものと思います。当該差額を貴社から転籍者に直接支給する場合も同じです。

 しかし、出向・転籍の実態をみますと、形式は転籍であっても実質は出向であったり、逆に出向の形式をとりながら実質は転籍である場合など、両者を明瞭に区分できない事例も多いようです。このため、転籍の場合の較差補てん金はすべて贈与であると決めつけるのではなく、次のような要件を具備しているかどうかをみたうえで、実質的に判断すべきではないかと考えます。

 (1)  転籍前法人において当該転籍を必要とする積極的な理由があること

 (2)  転籍前法人と転籍者との間に、転籍に同意する条件として、一定期間、給与較差補てんを行う旨の了解があったこと

 (3)  当該転籍前法人から他の関係会社等への転籍についても、ほぼ同一の基準により継続的に較差補てんを行っていること

 現在のところ税務上の取扱通達等はありませんが、このような要件が満たされておれば、その較差補てんは実質的にみて転籍後法人に対する贈与としての性質はないものと思います。

 (注)  転籍者に対する給与較差補てん金に係る消費税の処理は次のとおりです。
・転籍前法人…… 給与負担金とされる場合及び寄附金とされる場合ともに課税仕入れになりません。
・転籍後法人…… 受入給与負担金とされる場合及び受贈益とされる場合ともに課税売上げになりません。

 

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