目次 III-7


7 出向者が退職する場合の退職給与の負担区分


Question

 使用人Aは、出向元法人に20年勤続したのち出向し、その後出向先法人で10年勤続して退職しました。退職給与は出向元・出向先法人での在職期間を通算して支給することになっていますが、その負担について次のような方法をとる場合、出向元・出向先両法人の負担額はそれぞれいくらになりますか。

 (1)  両法人の在職年数に応じて負担する場合
 
 (2)  出向元法人は出向時の退職給与相当額を負担し、出向先法人は退職給与の総額から出向元法人負担額を控除した残額を負担する場合

 なお、退職給与の額は退職時における基本給の額に勤続年数に応ずる支給率を乗じて算出し、Aの基本給は出向時20万円、退職時30万円、退職給与の支給率は出向時は勤続20年で基本給の20倍、退職時は勤続30年で基本給の40倍となっています。



Answer

 退職給与の負担額は次のようになります。

  (1)の場合…… 出向元法人負担額 800万円
出向先法人負担額 400万円

  (2)の場合…… 出向元法人負担額 400万円
出向先法人負担額 800万円


 ◆退職給与負担額の計算方法

 出向した従業員が退職した場合の退職給与は、出向元法人の退職給与規程に基づいて、出向元法人及び出向先法人のそれぞれの勤務期間を通算して計算するのが一般的です。その退職給与の出向元法人及び出向先法人それぞれの負担方法には、ご質問のような二つの決め方があるようです。

 ・退職給与の総額  30万円×40=1,200万円

 ・出向時の退職給与 20万円×20=  400万円

 (1)の方法によって退職給与の負担額を計算しますと、次のとおりとなります。

 ・出向元法人負担額  1,200万円× 20

30
=800万円
 ・出向先法人負担額  1,200万円× 20

30
=400万円

 (2)の方法によって退職給与の負担額を計算しますと、次のとおりとなります。

 ・出向元法人負担額 20万円×20=400万円

 ・出向先法人負担額 1,200万円−400万円=800万円

 (注)  この方式の変形として、400万円に出向期間に見合う通常の金利を加算した金額を出向元法人が負担する方式もあります。いずれの場合も、出向元・出向先法人間の出向契約等において合理的な負担区分を定めておくことが必要です。

 ◆税務上の取扱い

 退職給与の額は、退職時の給料の額に勤続年数に応ずる支給倍率を乗じて計算すると定められているものが多いようですが、退職給与には賃金の後払いとしての性格、在勤中の功労に対する報酬としての性格及び老後の生活安定のための資金としての性格があるため、この場合の支給倍率は勤続年数の増加に比例するのでなく逓増していくように定められており、かつこれを乗ずる退職時の給与の額も、わが国の賃金制度が一般に年功序列型であることから勤続年数の増加により増加していくというのが通常です。

 このため、在職期間によるあん分方式と出向時の退職給与相当額を負担する方式とでは、負担額に著しい相違が生じますが、この二つの方法のどちらがよいかは、その出向の実態によって判断すべきです。出向時の退職給与相当額を出向元法人で負担する方式((2)の方法)ですと、出向先法人の負担額が勤続年数に比べて過大になるようにみえますが、前半20年間の働きに比べて後半10年間の働きがベテランとして質的に高いものであれば、不自然ではありません。税務上も、その出向の実態にふさわしいものである限り、どちらの方法を採用しても特に問題とされません。

 ◆退職給付に係る会計基準との関係

 退職給付に係る会計基準が、証券取引法の適用を受ける上場会社等を中心に、平成12年4月1日以後開始する事業年度から導入されます(『退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書』平成10年6月16日企業会計審議会)。
 この基準によれば、退職給付を従業員が提供した労務の対価として支払われる賃金の後払いとしてとらえ、勤務期間を通じた労務の提供に伴って発生額を見積もり、これを一定の割引率及び予想退職時から現在までの期間に基づき現在価値額に割り引く方法を採用しています。

 各期の退職給付の発生額を見積もる方法としては、(イ)勤務期間を基準とする方法、(ロ)全勤務期間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合を基準とする方法、(ハ)退職給付の支給倍率を基準とする方法のうち、(イ)の勤務期間を基準とする方法が国際的にも合理的で簡便な方法とされているところから、この方法を原則とし、(ロ)の方法は状況に応じて採用されるものとされ、(ハ)の支給倍率を基準とする方法は適当でないとされています。

 ただし、これら(イ)〜(ハ)の方法は、あくまで退職給付債務及びその発生額の見積りに係るもので、本問の(1)、(2)の方法のように、既に確定した退職給付の負担区分に係るものではありません。

 

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