目次 III-2


2 出向と寄附金課税


Question

 本来出向先法人が負担すべき出向者の給与を、出向元法人が負担した場合、経済的利益の供与として、出向元法人から出向先法人への寄附金が認定されるとのことですが、その根拠はどこにありますか。



Answer

 法人税法第37条第6項の「無償供与をした場合の寄附金の額は無償供与をした時の経済的利益の価額による」という規定と、同条第7項の「経済的利益の供与の対価が低額なときは供与時の価額との差額を寄附金に含める」という規定によります。また、出向元法人が現実に当該寄附金の額に対応する収益は何ら享受していないにもかかわらず、税法上益金の額の認定が行われるのは、法人税法第22条第2項の「有償又は無償による役務の提供も益金の額に算入すべき収益の額とする」という規定によります。


 ◆課税関係は過大な負担をした出向元法人にのみ生じる

 ご質問の場合、税務上、出向元法人において次の仕訳を想定します。

  (借方) 寄附金 / (貸方) 給与又は雑収入

 この仕訳は、経済的利益の供与について課税の公平を目的とした税務独自の観念的なもので、企業会計上このような仕訳は行いません。

 (注)  寄附金の損金算入限度額……指定寄附金、特定公益増進法人に対する寄附金及び国外関連者に対する寄附金以外の、一般の寄附金の損金算入限度額は次の算式のとおりです(法令73(1)一)。

期末資本
等の金額
× 事業年度の月数

12
× 2.5

1,000
寄附金支出前
の所得金額
× 2.5

100
×


 なお、寄附金支出前の所得金額がマイナスのときは、ゼロとして計算します。したがって、資本基準の金額の2分の1が寄附金の損金算入限度額となります。

 また、出向者より労務の提供を受けているにもかかわらず、その給与を過少にしか負担していない出向先法人の側のこれに対応する仕訳は次のようになりますが、これも税務独自の観念的な仕訳です。ただ出向先法人の側では、この仕訳によって所得金額に異同が生じません。したがって、課税問題は出向元法人にだけ生じます。

  (借方) 給 与 / (貸方) 雑収入

 経済的合理性を尊重する法人企業が、特に関係のない相手に対して自己に不利な条件で出向させ、結果として寄附金課税を受けることはまれだろうと思います。しかし、親会社から子会社へ出向する場合など関係会社間においては、出向元法人の犠牲による出向先法人への援助がしばしば行われますので、税務上は上記の観念的な仕訳により、出向元法人の所得金額を算定すべき場合が起こるわけです。

 ◆寄附金は多額の追徴税金を伴う

 なお、この寄附金課税は一般に多額の追徴税金を伴う点に留意すべきです。例えば出向元法人が負担する出向者給与のうち、1人当たり月10万円が寄附金認定を受けたとして、10人出向者がいれば年間1,200万円となり、寄附金の損金算入限度額にもよりますが、相当な税負担が発生する可能性があります。

 実際には、出向元法人が出向者に係る過大な給与負担をやむなくされるような、それなりに合理的な事情もないとはいえませんから、税務当局による寄附金認定も容易ではないかもしれません。しかし、税務調査において、交際費等の問題や資本的支出と修繕費の問題など種々の問題が指摘されているなかで、この出向者給与の寄附金認定問題が提起されますと、一般に金額が大きいだけにインパクトがあり、他の問題についての法人側の主張を鈍らせないとも限りません。

 

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