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2 転籍に関する従業員の同意 |
労働条件が実質的に変更しないグループ企業間の事例など特殊なケースを除いて、従業員の個別的同意が必要です。
転籍を法的に説明すれば、次のいずれかであると考えられます。
いずれにしても、少なくとも従業員本人の同意は必要となるわけですが、転籍させる時点での個別的同意が必要なのか、就業規則等による包括的同意で足りるのかという点は争いがあります(個別的同意と包括的同意に関してはI−1参照)。
この点結論からいえば、転籍させる時点での個別的同意が必要ということになります。なぜなら、転籍の場合は、労働契約の全部が転籍先に移転するという意味で、出向などと比べても従業員の身分が大きく変化しますので、「包括的同意」という抽象的な同意によって転籍させるのは従業員にとって酷と思われるからです。
しかし、これを逆にいえば、「包括的同意」という抽象的な同意によって転籍させても従業員にとって酷でないケースであれば、個別的同意は不要ということなります。 この点に関して日立精機事件(千葉地判昭56.5.25労経速1118号)という裁判例があります。この事案では、関連企業・系列会社への転籍であり、労働条件も不利益にはならず、実質的には企業の一部門への配転と同じであるとの事情が考慮されて、個別的同意なく転籍を命じ得るとされました。 (1)就業規則等に転籍を命じる旨の具体的規程があり (2)従業員もその点を具体的に熟知しており (3)更に転籍によって労働条件が不利益にならず (4)転籍とはいっても、実質的には企業の他部門への配転と同じというような事情がある という要件をすべて満たせば、個別的同意なく転籍を命じ得る場合はあると思われます。ただ、これが認められる余地は非常に小さいということを念頭においてください。
会社の経営が非常に厳しく、従業員を整理解雇せざるを得ないという事態になった場合、整理解雇を回避するための転籍というものが考えられます。これに関しては次問を参照してください。
分社化の場合、分社化の対象部門の従業員に関しては、従業員本人の同意がなくても転籍を命じ得るという内容の法律が現在検討されています。 |