目次 I-6


6 出向者の労働条件の基準


Question

 出向者についての次の事項は、出向元の就業規則その他の諸規定を適用するのでしょうか、出向先のものを適用するのでしょうか。

 (1)所定内賃金
 (2)賞与
 (3)労働時間、休憩、休日、有給休暇
 (4)時間外割増手当
 (5)福利厚生関係



Answer

 出向者の労働条件基準については、出向に関する就業規則・出向規定・労働協約、出向に際しての個別的合意に定めるところによります。

 これらの定めがない場合は、原則として、労務提供に関係する分は出向先の基準が適用され、それ以外に関係する分は出向元の基準が適用されると考えられます。


 ◆出向者の労働条件に関する就業規則、出向規定、労働協約

 出向は労働契約の一部が出向先に移転するものです。この移転された部分についての労働契約が、出向者と出向先間で成立します。

 労働基準法と同法施行規則で、使用者には労働者に対する労働条件の書面による明示が義務づけられています(労基法15(1)、労基則5)ので、一部移転した労働契約で使用者となる出向先には、出向者に対する書面による労働条件明示義務が生じます。出向者に対する労働条件の明示は、出向元が出向先に代わって行うことができます。

 明示される労働条件は、出向元の出向に関する就業規則、出向規定、労働協約、個別の出向に際しての出向者との合意等によって決まります。また、この内容に沿った出向元と出向先との出向契約書でも、出向者の労働条件が自ずと決まります。

 出向規定等で労働条件について定めていない場合、原則的には、労務の提供に関係する分は出向先のものが適用され、それ以外の分は出向元のものが適用されるでしょう。ご質問の(1)から(4)は労務の提供に関係する労働条件ですので、出向先のものが適用されるでしょう。ただし、実務の現状では、(1)の賃金については出向元基準で適用されることが多いようです。(5)については、労務提供に関係するものだけではなく、出向元の従業員たる地位に関係するものもありますので、出向元の福利厚生関係を出向者が利用できることもあります。
 以下、(1)から(5)について個別的に説明をしていきます。

 ◆所定内賃金

 労働者に支払われる賃金のうち、基本給と役職手当、家族手当等の毎月定額支給される分を所定内賃金といいます。
 出向者は、出向先の指揮命令の下に出向先のために労務の提供をしていることから、出向規定等で定めがない場合には、出向先の賃金基準により賃金の支払いを受けます。

 しかし、労働条件の低下を避けるために、出向規定や出向契約書等の定めで、出向元基準により出向元が支払うとする例の方が多いようです。また、出向先基準分を出向先が支払い、出向元と出向先の各基準で算定された所定内賃金差額を出向元が出向者に支払う例もあります。

 ◆賞 与

  賞与は、基本的に支給対象期間の勤務に対応する賃金(菅野和夫『労働法(第五版)』弘文堂211頁)と考えられていますので、出向規定等で定めがない場合には、所定内賃金と同様に、出向先基準となります。

 出向規定等の例では、出向元基準で出向元が支払う、あるいは出向先が出向先基準分を支払い、出向先基準での金額と出向元基準での金額との差額を出向元が補てんするというものが多いようです。

 ◆労働時間、休憩、休日、有給休暇

 出向者の労務の提供に関係する労働条件については、まず出向規定等の定めに従い、この定めがない場合には、出向先の就業規則その他関連諸規定が適用されるのが原則です。労働時間、休憩、休日、有給休暇などの勤務管理に関する事項は、出向規定等での定めがなければ、原則として出向先の就業規則等が適用されます。

 ところで、出向元より出向先の方が、労働時間を始めとする勤務管理に関する労働条件面で劣っていることがよくあります。この劣った分については、出向規定等で格差補償をした方がいいでしょう。

 出向規定等では、低下した労働条件である延長労働時間、休日減、有給休暇減に対して賃金補償や復帰時にまとめて長期休暇を与えるなどの代償措置を講じているのが一般的です。

 ◆時間外労働・休日労働の割増賃金率基準

 時間外労働・休日労働については、次問で説明するように割増賃金が必要となります。この割増賃金率の基準については、賃金、賞与、労働時間・休日と同様に、出向規定等で定めていればこれに従い、定めがなければ原則として出向先基準となります。

 ところで、出向先の基準が出向元基準と対比して労働条件の低下を生ぜしめる場合には、前項で述べたように、低下した労働条件分の差額を出向元が負担して代償措置を講じることがよくあります。

 ◆福利厚生関係

 企業は、労働者の福利厚生として、社員食堂、社宅・寮、レクリエーション施設の提供、慶弔規定、社内預金制度や住宅資金融資を始めとする従業員貸付制度を設ける等していることがあります。

 出向規定等で福利厚生に関して定めていなければ、既に説明したところと同様に、労務の提供に関係する分は出向先基準で、それ以外の出向元従業員たる地位に関係する分は出向元基準(場合によっては出向先の分との重複適用)となります。

 社員食堂の利用や単身者用社宅・寮については労務提供に関係するものであることから、出向元の施設を利用できないことになります。

 出向元の慶弔規定適用や社内預金・従業員貸付制度の利用は、出向者に残っている出向元での従業員たる地位に関係するものですので、出向者も利用・適用対象となります。

 既婚者向社宅とレクリエーション施設については、出向先から提供があるのかどうか、出向者が単身で出向先に行かざるを得ないのかどうかなど、それらの施設と労働提供との結び付きの強弱等からの総合判断で決まります。

 

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