第2章 |
第2章 仕入税額控除制度の役割 |
1 前段階税額控除 消費税は、一つの商品が消費者に届けられるまで流通の段階で取引のたびに課税されます。そして、税の累積を避けるため、その前段階で課税された消費税を排除する前段階税額控除方式を採用しています。 すなわち、消費者に対する取引だけに限らず事業者間取引も含めてすべての取引を課税の対象とする一方で、納付税額の計算においては、その前段階で課税された消費税を排除する仕入税額控除を行うのです。 消費税は、申告納税手続を行う事業者を通して、実質的に消費者が税を負担することが予定されている間接税ですから、消費に対する課税を実現するためには、税の転嫁が確実に行われなければなりません。この転嫁の手続が仕入税額控除です。 したがって、仕入税額控除は、他の税においてみられるような一定の納税者に対する優遇や特典として存在する税額控除とは、その位置づけが異なります。売上げに係る消費税額と仕入れに係る消費税額のいずれもが正しく把握されてこそ、その事業者が納付すべき適正な税の算定が可能となります。 2 転嫁の仕組み 消費税の転嫁の仕組みは、次のとおりです(便宜上、消費税額に地方消費税の額を含めています。)。
各事業者は、売上げの消費税額から仕入れの消費税額を控除して納付税額を計算します。 各事業者が納付した消費税額の合計額は、最終的に消費者が負担した消費税額と一致します。
3 付加価値税の性格 仕入税額控除には、もうひとつ重要な論点があります。消費税は、前段階の税を控除することによって、付加価値税の性格をもつことになります。日本の消費税は、昭和40年頃からEU諸国の付加価値税を参考に研究されていました。 付加価値とは、原材料の製造から製品の小売までの各段階において事業が国民経済に新たに付加した価値のことです(金子宏『租税法(16版)』589頁、平成23年)。たとえば、A材料を200円、B材料を100円で購入し、これらを加工して製品を製造し、1,000円で販売したとします。材料のままでは300円しか価値がなかったものが1,000円の製品となりました。これが付加価値です。また、問屋街に出かけて、10個入り1パックの商品を10,000円で仕入れ、商店街にある店舗に運び、一つずつ分けて陳列し、1個2,000円、計20,000円で販売したとします。事業者が行った一連の行為が、単価1,000円の商品の価値を2,000円に引き上げたことになります。これが付加価値です。付加価値を構成するのは、主に企業の利益と人件費ということになります。 売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除する計算は、企業の付加価値に対する税額を算出する計算に等しく、各事業者が納付する付加価値に対する税額の総和は、最終消費者が負担する消費税の額と一致することになります。 4 対象となる事業者 仕入税額控除を適用することできるのは、課税事業者です。免税事業者は仕入税額控除を適用して申告することができません(消法30)。 5 売上げの区分と仕入れの区分 (1)売上げの区分 課税売上げは、課税標準額を計算するために、正しく把握しなければなりません。 そして、課税標準額の計算のみならず、控除対象仕入税額を正しく計算するための基本は、売上げを、(1)課税、(2)免税、(3)非課税、(4)不課税の4つに区分することです。すなわち、課税売上割合の計算、課税仕入れ等の区分を正しく行うためには、売上げについて、いずれも混同することなく4つに区分する必要があります。 免税、非課税、不課税は、課税標準額には算入されませんが、これらを混同すると、課税売上割合を正しく計算することができません。また、課税仕入れ等の区分にあたり、その課税仕入れ等の使用目的となる売上げが正しく把握できていたとしても、その売上げの課否判定を誤っていれば、結果的に、課税仕入れ等の区分も間違いになります。 また、免税売上げについて輸出証明等を確認しているか、仕入れとして計上すべきものを売上げの減算としていないか、売上げ対価の返還等を仕入れとしていないか、などの点にも留意する必要があります。
(2)仕入れの区分 仕入れは、課税仕入れと課税仕入れ以外に区分します。仕入税額控除の計算の基礎となる取引は課税仕入れであり、売上げと違って、免税、非課税、不課税の区分は考えません。 輸入については、引取りの際に課税された消費税額を正しく把握しておく必要があります。 また、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合には、課税仕入れ及び引き取った課税貨物の用途を区分する必要があります。 |