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3.申告が簡単な簡易課税制度 |
既に説明しましたように、消費税の納付税額は次の算式で求められるのが原則です。
しかし、1年間の課税売上げに係る消費税額と課税仕入れに係る消費税額を計算するのは複雑かつ大量の経理処理を要することから、小規模零細事業者にとっては事務負担が重くのしかかり大変な負担がかかります。 そこで、簡単に「納付すべき消費税額」を計算する方法として簡易課税制度があります。この制度を選択すると、いちいち課税仕入れに係る消費税額を計算する必要はありません。年間課税売上高に一定のパーセントを乗じると「納付すべき消費税額」が計算されるからです。具体的には次の算式によります。
この算式からわかるように年間の課税売上高に業種ごとに定められた「みなし仕入率」を乗じて消費税額を計算することから、課税仕入れがいくらであろうと課税売上高さえ把握していれば納税額が計算できてしまいます。 (1) 簡易課税制度の適用要件 簡易課税制度の適用を受けるためには、次のすべての要件を満たす必要があります。
(2) みなし仕入率 簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率は、次のとおりです。
なお、第3種事業から除かれる、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業は第4種事業に該当します。 また、事業者が自己において使用していた固定資産を譲渡する場合は、第4種事業に該当することになります。
先ほどの事例1では、原則課税で計算した消費税額は34万円でした。しかし簡易課税を選択した場合、事例2のように20万円の消費税額で済みます。 理由は簡単で、1年間の課税売上高に小売業(第2種事業)として定められた「みなし仕入率」(80%)が、実際の課税仕入率を上回っているからです。「みなし仕入率」>「実際の課税仕入率」の場合には原則課税に比べて納税額が少なくなります。 事例2では14万円(34万円−20万円)も少ない納税額です。つまり、これが「益税」で簡易課税特有の利点であります。逆に「みなし仕入率」<「実際の課税仕入率」の場合には、原則課税を選択すればよいわけですが、今回の改正で、このような消費税で損得が生じる余地を少なくするために、簡易課税制度を選択できる事業者の課税売上高の上限を2億円から5,000万円に引き下げることにしたのです。 (3) 2種類以上の事業を営む事業者 簡易課税制度を選択した事業者が第1種事業から第5種事業のうち一の事業を専業に営んでいる場合には、それぞれの事業区分に該当する「みなし仕入率」を乗じた金額が仕入税額控除の額となります。 しかし、2種類以上の事業を営んでいる場合、「みなし仕入率」は原則として次の算式により求めます。
ただし、次のイ又はロのいずれかに該当する場合を除いて、次の「簡便法」により計算することができます。
【特例1】 1事業に係る課税売上高が75%以上の場合 2種類以上の事業を営む簡易課税適用事業者で、そのうち1種類の事業の課税売上高が課税売上高全体の75%以上を占める場合には、その1種類の事業の「みなし仕入率」を課税売上高の全体に適用して仕入税額控除の額を求めることができます。 【事例3】 次の設例により、消費税の簡易課税制度を選択している事業者A、Bの仕入税額控除の額を、上の【特例1】の計算を利用するかどうかの観点から検討してみましょう。
【特例2】 2事業に係る課税売上高が75%以上の場合 3種類以上の事業を営む簡易課税適用事業者で、そのうち2種類の事業の課税売上高の合計額が課税売上高全体の75%以上を占める場合には、その2種類の事業のうち「みなし仕入率」の高い方の事業に係る課税売上高については、そのまま本来の「みなし仕入率」を適用し、それ以外の課税売上高については、その75%以上を占める2種類の事業のうち低い方の「みなし仕入率」を適用して仕入税額控除の額を計算をしてもよいという特例制度が設けられています。 【特例3】 事業ごとの課税売上高を区分していないとき 2種類以上の事業を営む簡易課税適用事業者が、課税売上高を事業の種類ごとに区分していない場合には、この2種類以上の事業の「みなし仕入率」のうち最も低い「みなし仕入率」を全体に適用して仕入税額控除の額を計算することになります。 <事業の区分の方法> 以上のことから、2種類以上の事業を営む簡易課税適用事業者が仕入税額控除の額を計算する場合には、その課税売上高をそれぞれの事業ごとに区分することが肝要です。 具体的には次のような方法によることになります。
【事例4】 簡易課税制度を選択している次の事業者の仕入税額控除の額を【特例】1〜3をふまえて計算してみましょう。
【参考2】 事業区分判定フローチャート 【参考3】 みなし仕入率適用区分フローチャート |