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 第3章 相続税・贈与税の信託課税

第1節 相続税・贈与税における信託課税

1 贈与または遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利

 信託の効力が生じた場合に、適正な対価を負担せずに信託の受益者等となる者があるときは、その信託の効力が生じた時に、その信託の受益者等となる者は、その信託に関する権利をその信託の委託者から贈与により取得したものとみなされることとされています。

 ただし、その委託者の死亡に基因してその信託の効力が生じた場合には、遺贈によりその信託に関する権利を取得したものとみなされます(相法9の2丸数字1)。


(注) 「受益者等」とは、受益者としての権利を現に有する者および「特定委託者」をいいます。
 「特定委託者」とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として信託の目的に反しないことが明らかな場合に限り信託の変更をすることができる権限を除き、他の者との合意により信託の変更をする権限を含みます。)を現に有し、かつ、その信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除きます。)をいいます(相法9の2丸数字5、相令1の7)。
 委託者でなくても信託行為によりこのような権限等を与えられた者がいれば、特定委託者に該当することになります。
 なお、この信託の信託財産の給付を受けることとされている者には、停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する者(例えば、信託が終了した場合に、残余財産の給付を受ける権利を有する者が該当します。)を含むこととされています(相令1の12丸数字4)。


2 新たな受益者等が存するに至った場合

 既に受益者等の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たにその信託の受益者等が存するに至った場合には、その受益者等が存するに至った時に、その受益者等となる者は、その信託に関する権利をその信託の受益者等であった者から贈与により取得したものとみなされます。

 ただし、その受益者等であった者の死亡に基因して受益者等が存するに至った場合には遺贈により取得したものとみなされます(相法9の2丸数字2)。



3 一部の受益者等が存しなくなった場合

 受益者等の存する信託について、その信託の一部の受益者等が存しなくなった場合に、適正な対価を負担せずに既にその信託の受益者等である者がその信託に関する権利について新たに利益を受けることとなるときは、その信託の一部の受益者等が存しなくなった時に、その利益を受ける者は、その利益をその信託の一部の受益者等であった者から贈与により取得したものとみなされます。

 ただし、その受益者等であった者の死亡に基因してその利益を受けた場合には、遺贈により取得したものとみなされます(相法9の2丸数字3)。



4 信託が終了した場合

 受益者等の存する信託が終了した場合に、適正な対価を負担せずにその信託の残余財産の給付を受けたり、または財産が帰属すべき者となる者があるときは、その給付を受けるべき、または帰属すべき者となった時において、その信託の残余財産の給付を受けるべき、または帰属すべき者となった者は、その信託の残余財産(その信託の終了の直前において、その者がその信託の受益者等であった場合には、その受益者等として有していたその信託に関する権利に相当するものを除きます。)を、その信託の受益者等から贈与により取得したものとみなされます。

 ただし、その受益者等の死亡に基因してその信託が終了した場合には、遺贈により取得したとみなされます(相法9の2丸数字4)。



5 信託財産に関する権利と信託財産の所有

 贈与または遺贈により信託に関する権利または利益を取得した者は、その信託の信託財産に属する資産および負債を取得し、または承継したものとみなされます。

 ただし、法人税法に規定する集団投資信託、法人課税信託および退職年金等信託については、受益者等が信託財産を必ずしも所有しているとは言えないことから、上記規定からは外されています(相法9の2丸数字6



6 信託に関する相続税法の規定

 贈与または遺贈により取得したとみなされる信託に関する権利または利益を取得した者は、その信託の信託財産に属する資産および負債を取得し、または承継したものとみなして、相続税法の規定が適用されます。

 信託に関する権利は信託財産であり、その中身は、信託財産の資産および負債ということになります。

 また、法人税法に規定する集団投資信託、法人課税信託および退職年金等信託については、受益者等が信託財産を明確に所有しているものではないことから、上記規定の対象外とされています(相法9の2丸数字6)。

 信託法では、委託者の権限が大幅に制限されていて、いったん委託者の財産を受託者に信託すると、その信託財産の運用・管理・処分等は一切受託者に移転してしまいます。

 平成18年改正により、遺言によって受益者の存しない信託《目的信託》を設定した場合、委託者の相続人は、委託者の死亡があっても委託者の地位を承継できないことになりました。このようなことから、委託者課税であった旧税法も、委託者から受託者への課税へと変化を遂げています。

 そして、改正税法では、受益者の定義が設けられ、「受益者等」と「受益者として権利を現に有する者」とは異なると規定されています。

 例えば、受益者連続型信託のように、Aが死亡した後はBを受益者に、Bが死亡した後はCを受益者にというような場合には、BはAが死亡するまでは受益者としての権利を有さないことから、Aが死亡するまでは「受益者等」とは言えないと規定されています。

 したがって、残余財産受益者であっても、信託が終了し、残余財産に対する権利が確定するまでは、残余財産の給付が受けられるかどうかわからないような場合には、残余財産に対する権利が確定するまでは「受益者等」に含まれないこととなるときもあるということです。

 

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