目次 II-4


4 税制適格退職年金制度から確定拠出年金制度への移行


Question
 当社は税制適格退職年金制度を採用しています。このたび、退職給付制度改革の一環として、確定拠出年金制度の導入を検討しています。この場合の税務上の取扱いを説明してください。



Answer

(1) 税制適格退職年金からの移行

 税制適格退職年金は、平成24年3月31日(以下、「適用終了日」といいます。)に終了します。したがって、税制適格退職年金は、この適用終了日までに解除する必要があります。税制適格退職年金を解除した場合、年金資産は受益者に分配する必要がありますが、確定拠出年金法に定める企業型年金(以下、「企業型年金」といいます。)に移行する場合は、当該年金資産を個人別管理口座に移換することができます。(確拠年金法令附2(3))

 この場合、移換する資産は適格退職年金契約の全部又は一部を解除することにより事業主に返還される資産であり、いったん事業主に返還され、直ちに資産管理機関に移換することになります。


(2) 移換限度額の計算

 移換限度額は、(1)移換元の制度で規定する移換可能額と、(2)移換先の企業型年金で規定する移換限度額とのいずれか低い方の金額となります。

(1) 移換元の制度で規定する移換可能額

 移換元の移換可能額は、適格退職年金契約の全部又は一部を解除することにより事業主に返還される金額となります。

 返還される金額は、過去勤務債務等の現在額がない場合において返還されたものに限り、当該適格退職年金契約に係る受益者等が負担した掛金等を原資とする部分を除きます。(法令附16(1)九ヘ、ト)

 具体的には、(イ)移行前の責任準備金から移行後の責任準備金を控除した金額と、(ロ)移行後の責任準備金を超える年金資産額とのいずれか低い方の金額が移換可能額となります。この場合、移行後の税制適格退職年金に積立不足がないこと(この状態を「フルファンディング」といいます。)が要件となります。税制適格退職年金を解除して全面的に移換する場合は、フルファンディングの制限は受けませんが、一部移行の場合には、過去勤務債務部分を一括拠出するか、退職給付額を減額改訂してフルファンディングにする必要があります。(法規附5(2)二)

(2) 企業型年金で規定する移換限度額

 移換される資産の受入限度額は、各従業員について、各従業員の使用人としての従事期間に企業が企業型年金の掛金を拠出したものとして計算した金額に、所定の計算による利回り額を加算した金額とします。(確拠年金法23)この勤務期間の算定の基準日(最終日)は、資産の移換に伴い適格退職年金契約の全部又は一部が解除される日とします。

 また、資産の移換の受入れを行う日は、資産の移換に伴い税制適格退職年金契約の全部又は一部が解除される日の属する月の翌月の末日以前の、企業型年金規約で定める日とされます。(確拠年金法令附2(3))


(3) 税務処理

(1) 掛金、移換について

 移行前の税制適格退職年金制度においては、法人税法で規定された限度内での掛金等を損金算入することができます。企業型年金へ移行後は、掛金が全額損金算入額となります。ただし、掛金拠出額には限度額があります。また、移換があった場合は、移換資産については課税されません。(法令135(1)三)

 この場合、資産が従業員の個人別管理口座に移換された時点では、従業員には課税されません。(所法64(1)四)

 しかし、従業員に分配があった場合には、個人に対する課税が生じます。

(2) 法人税法上の退職給与引当金の段階的取崩し

 法人税法上の退職給与引当金は、平成15年3月31日以後最初に終了する事業年度から段階的取崩しが強制されています。段階的取崩し中の各事業年度において、退職給与引当金の額が期末在職使用人の自己都合による退職給与の要支給額を超える場合は取り崩す必要があります。しかし、企業型年金への移行により退職給与規程が改正された場合には、自己都合による退職給与の要支給額との比較によるこの取崩し規定は、適用されません。(II−6参照)


(4) 会計処理

 過去勤務に係る部分(従業員の既得権部分)を全部移行する場合は、税制適格退職年金制度の終了の処理を行います。過去勤務に係る部分をすべて存続し、将来勤務に係る部分のみを全部移行することはできません。これは、過去勤務に係る部分のみを対象とする閉鎖適格退職年金に移行することが、税制適格退職年金制度から厚生年金基金制度への移行に限られているためです。

 過去勤務に係る部分の一部を移行する場合は、一部終了の処理を行い、継続する部分は、引き続き税制適格退職年金(将来勤務に係る部分も一部移行する場合)として継続させます。

 過去勤務に係る部分を移行する場合は、資産の移換の問題が発生しますが、フルファンディングのための掛金の一時拠出に係るものを除き、移換に関して会計上の仕訳は発生しません。

 なお、フルファンディングのため規程改訂により給付減額を行った場合は、過去勤務債務が発生します。過去勤務債務については、企業が採用する費用処理方針に従って、発生時より費用処理を行います。


(5) 移換限度額の撤廃

 税制適格退職年金等の確定給付型の退職給付制度から企業型年金へ移行する場合の移換可能な金額は、上記(2)のとおりに限られています。この限度額のために、給付水準の高い大企業では資産の全額移換ができず、資産の一部を移行前の制度に残すか、従業員に一時金として分配しています。これが確定拠出年金導入の阻害要因になっています。そこで、企業型年金側で規定する移換限度額は、平成16年度の年金制度改正で限度額が撤廃されました。(平成16年10月1日施行)なお、移換元の移換可能額の規定は改正されず存続します。(国民年金法等の一部を改正する法律38、確拠年金法54(1))

 

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