目次 V


V.移転価格税制

ポイント
 ・ モノやサービスを「移転」するときの「価格」に関する「税制」です。
 ・ 国外の関連者と取引を行う際の価格が問題となります。


1 移転価格税制の趣旨

 近年、経済のグローバル化に伴って多くの多国籍企業が誕生し、世界をまたにかけて営業活動を行っています。

 このような多国籍企業においては、親子会社間や兄弟姉妹会社間で取引を行うケースもめずらしくありません。そのような取引においては、第三者間で取引されている価格と異なる価格(例えば、親会社の言い値)で取引を行うことがあるかもしれません。

 そうすると、必然的に一方の利益が他方に移転することになりますので、利益が増える国ではその分税収も増えるのでありがたいかもしれませんが、利益が減る国ではその分税収が減ってしまうため由々しき問題となります。

 そこで、このような利益移転を防止するため、各国は「移転価格税制」の整備を進め、日本でも昭和61年の税制改正において移転価格税制が導入されました。


2 制度の概要

 基本的なしくみとしては、法人が国外の関連者との間で行う資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引について、その法人が国外の関連者から支払いを受ける対価の額が独立企業間価格(第三者間において通常成立するであろう価格。詳しくは『図解とポイント解説ですっきりわかる [最新]国際税務ABC』(辻・本郷税理士法人 編著)V−6参照)に満たないとき、またはその法人が国外の関連者に対して支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなしてその法人の所得を計算する、というものです(措法66の4丸数字1)。

 日本の移転価格税制では、日本法人が国外関連者から支払いを受ける対価の額が独立企業間価格に満たない場合(低額譲渡)と、日本法人が国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超える場合(高価買入)を対象にしており、その逆(高額譲渡及び低価買入)については対象にしていません。

 これは、移転価格税制が国の税収を確保することを目的としているため、自国にとって有利なケース(高額譲渡及び低価買入)については移転価格税制を適用する必要がないためです。

 ただし、そのような場合には、相手国において移転価格税制が問題になる可能性があります。

 

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