目次 II-6 9


第6章 流動負債

9.未成工事受入金

(1)勘定科目の概要

 建設業においては、工事期間が長期になり、またその請負金額も多額となる傾向があり、工事期間中の建設業者の資金的な負担が重くなります。そのため、着工時や工事期間中において、前払金や中間払金等の名目で請負代金の一部が支払われる慣行があります。

 このように、建設会社が発注者から請け負った請負工事契約につき、工事が完成する前に受け取った工事代金を示すのが未成工事受入金です。未成工事受入金は、一般企業の前受金に相当するものです。


(2)会計処理

 発注者より工事の完成引渡し前に請負代金の一部を受領した場合には、未成工事受入金を計上します。

 このとき、消費税相当額も含めて受領した場合には、当該金額は仮受消費税等として、工事代金部分とは分けて処理する方法がとられます(未成工事受入金の受領時ではなく、完成工事高の計上時に仮受消費税を計上する方法もあります)。


【事例II−6−13】未成工事受入金の受領

(1)

工事価格300,000千円の建設工事の請負に際し、発注者から着手金として、52,500千円を受け取った。
(借方)現金預金  52,500 (貸方)未成工事受入金  50,000
                     仮受消費税等    2,500
[消費税]当事例では、工事代金の受領時に仮受消費税等を認識します。
(2) 工事の施工中において、発注者から中間払金として105,000千円を受け取った。
(借方)現金預金  105,000 (貸方)未成工事受入金  100,000
                       仮受消費税等    5,000
[消費税]当事例では、工事代金の受領時に仮受消費税等を認識します。
(3) 工事が完成し、発注者への引渡しが完了した。
(借方)完成工事未収入金 157,500  (貸方)完成工事高  300,000
    未成工事受入金  150,000      仮受消費税等   7,500
[消費税]工事の完成引渡しは資産の譲渡にあたるため、課税取引となります。
 未成工事受入金累計額=50,000千円+100,000千円=150,000千円
 仮受消費税等=(工事価格300,000千円−未成工事受入金150,000千円)×5%
          =7,500千円
 完成工事未収入金=(工事価格300,000千円−未成工事受入金150,000千円)
             +7,500千円 =157,500千円



【事例II−6−14】未成工事受入金の受領(工事進行基準適用工事)

(1)

工事価格1,500,000千円、工期2年の建設工事の請負に際し、着手金として315,000千円を受け取った。当該工事は会社の基準により工事進行基準を適用し、請負金にかかる消費税は工事完成時に申告するものとする。
(借方)現金預金  315,000 (貸方)未成工事受入金 300,000
                      仮受消費税等   15,000
[消費税]当事例では、工事代金の受領時に仮受消費税等を認識します。
(2) 着工して初めての決算を迎えた。原価比例法による工事進捗度は30%であった。
(借方)完成工事未収入金 150,000  (貸方)完成工事高  450,000
    未成工事受入金  300,000
 完成工事高=工事価格1,500,000千円×工事進捗度30%=450,000千円
 完成工事未収入金=完成工事高450,000千円−未成工事受入金300,000千円
             =150,000千円
  (借方)仮受消費税等  15,000  (貸方)預り金    15,000
仮受消費税は預り金勘定に振り替え、翌事業年度に繰り越します。
(3) 翌期首において預り金勘定を振り戻した。
(借方)預り金     15,000  (貸方)仮受消費税等 15,000
(4) 翌事業年度中において、工事が完成した。
(借方)完成工事未収入金 1,110,000(貸方)完成工事高 1,050,000
                          仮受消費税等   60,000
[消費税]工事の完成引渡しは資産の譲渡にあたるため、課税取引となります。
 完成工事高=工事価格1,500,000千円−前期完成工事高450,000千円
        =1,050,000千円
 仮受消費税=工事価格に対応する消費税75,000千円−前期計上消費税15,000千円
        =60,000千円
 完成工事未収入金=当期完成工事高1,050,000千円+仮受消費税60,000千円
             =1,110,000千円



(3)税務処理

 個別評価金銭債権に対する貸倒引当金の繰入れに関して、同一人に対する完成工事未収入金と未成工事受入金がある場合、その完成工事未収入金の額のうち未成工事受入金の額は、実質的に債権とみられない部分の金額に該当します(法基通11−2−9)。

 消費税について、建設工事の課税売上の時期は、原則として完成引渡し時点です。よって、前渡金や中間払金等の入金時に消費税相当額が含まれている場合、仮受消費税等として処理しておき、決算日をまたぐ工事にかかるものについては、預り金等として翌事業年度に繰り越す処理を行います(消基通9−1−1・9−1−5・9−1−6)。

 なお、工事進行基準を採用している場合には、完成引渡し前であっても、これらの収入金額が計上されたときに消費税の申告をすることができます(消法17、消基通9−4−1)。

 

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