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Question
 事業再生・組織再編における会社清算の活用
 事業再生や組織再編を行うときに会社清算を活用できる場合があると聞きましたが、どのような場合に会社清算を活用するのでしょうか。

Answer 解説

 事業再生や組織再編を行うにあたって会社清算を活用できる場合とは、対象会社については清算するものの、対象会社の事業自体は他の会社等に引き継ぐというケースが考えられます。言い換えれば、事業を継続させる一方で、その事業を行っていた会社だけを清算して消滅させるというケースです。


 1 事業再生における会社清算の活用例

 事業再生の場合における会社清算の活用例としての代表的な方法は、一般に第二会社方式といわれる方法です。具体例として以下のような設例を想定します。

設例
(1)  資産   100百万円(時価、簿価ともに同額)
(2)  負債   200百万円(時価、簿価ともに同額)
(3)  資本 △100百万円(資本金50百万円、利益剰余金△150百万円)
(4)  税務上の繰越欠損金はなし


 第二会社方式といわれる手法は、事業再生を行うにあたって、既存会社から受け皿会社を分割(または譲渡)し、既存会社は清算してしまうという方法です。

 上記の設例では、資産100百万円と負債100百万円を受け皿会社に分割(または譲渡)し、残った負債100百万円を清算により消滅させることになります。法的整理によらず私的整理の範疇で事業再生を模索する場合、必要に応じて債権者が債権放棄を行う場合があり、その際に第二会社方式が活用されます。上記の設例ですと、負債200百万円のうち100百万円は受け皿会社に承継されますが、残りの100百万円に対しては実質的に債権放棄が行われることになります。

 ところで、そもそも債権放棄という行為は異例のことであり、債権者としては想定していないことであるにもかかわらず、経営の失敗等によって思わぬ負担を余儀なくされるものですから、経営者責任や株主責任について追及されることも止むを得ません。その点、この第二会社方式ですと、既存会社は清算されるため、間接有限責任の株式会社における既存株主の責任は履行されることになります。一方、受け皿会社が事業を承継するため、経営者の交代によって、経営者責任の追及という意味でもけじめをつけることができます。

 また、債権放棄に伴って債務免除益が計上されることになるため、課税の問題がクリアできなければ、安易に債権放棄が行えないという事情もあります。つまり、債務免除益を相殺できる損金算入項目がなければ再生計画を策定することができないわけです。その点、この第二会社方式ですと、清算手続き中に債務免除を受けることによって課税問題を回避することが可能となり、予定していた債務免除を受け入れて、今後の再生計画に道筋をつけることができるというメリットがあります。

 その他、事業再生に関する手法として事業譲渡を行い、既存会社は清算するというスキームが採用されることがありますが、その場合の効果についても第二会社方式と同様といえます。


 2 組織再編における会社清算の活用例

 組織再編の場合における会社清算の活用例についても事業再生と同様の効果が考えられます。つまり、既存会社を清算する一方で、事業を継続させるために既存会社から事業の移管が行われます。その方法も既述の事業再生の場合と同じく、事業譲渡・会社分割等があります。もちろん、会社清算を前提としない場合は、合併等も考えられますが、本書では会社清算の活用に限定して解説していますので、この点については割愛します。

 具体例としては、子会社の事業全てを他の会社に事業譲渡する場合や赤字子会社を支援する場合に事業譲渡や会社分割といった手法を用いることがあります。

 前述の【設例】に追加して、負債のうち140百万円は親会社から、60百万円は銀行からの借入金という前提条件のもとに、事業を譲渡し、譲渡後に既存会社を清算する場合を想定してみます。

 資産100百万円と負債100百万円を新設会社または既存会社に事業譲渡することによって、200百万円の負債のうち100百万円(60百万円は銀行、40百万円は親会社)が譲受会社に引き継がれますが、残り100百万円(全額親会社)は会社清算により実質的に債権放棄が行われます。これを組織再編の一環として実施する場合、この債権放棄が税務上子会社への寄附金と認定されるのか子会社への合理的な支援として認定されるのかが一つの大きな論点となります(法基通9−4−2)。

 この点、法人税基本通達では合理的な再建計画に基づくものであり、相当の理由がある場合は、寄附金に該当しない旨を規定しています。合理的な再建計画とは、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性および支援割合の合理性等について、個々の事例に応じて総合的に判断するものとされています。例示として、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として合理的なものとして取り扱うとしています。

 したがって、設例の場合は、親会社のみの負担であるため合理的な再建計画であるとはいえないと認定される可能性があります。しかし、引き継ぐべき負債の内訳が親会社70百万円、銀行30百万円ですと合理的な再建計画に該当する可能性が高くなります。

 

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