IV-Q21 |
Q21 支店か子会社か |
会社を設立してビジネスを始めて、そのビジネスが軌道に乗ってくると事業拡大ということになります。事業拡大は、経営者にとって夢でありロマンでもありますが、事業拡大には当然リスクも伴います。慎重に検討しなければなりません。 事業拡大の方向として、従来の事業の拡大(同一事業の拡大)を志向するのと、従来の事業とは異なった新規事業(新規事業の拡大)を志向するものとがあります。 同一事業の拡大の場合は、ビジネスエリアの拡大ということが多いと思います。たとえば、従来は西日本がビジネスエリアであったけれども、東日本にもビジネスエリアを広げたい、そのために、新たに東日本にも拠点を設けるといった具合です。同一事業の拡大の場合には、新たな拠点でのビジネスのやり方は、従来のビジネスのやり方と大きくは変わらないので、社内規定も従来のままで間に合う場合が多いと思われます。同一事業の拡大の場合、新たな拠点は支店でよいかと思います。 新規事業の拡大の場合は、従来のビジネスのやり方と異なる場合が多く、社内規定は、新規事業には新規事業の社内規定が必要になります。また、新規事業の独立性を重視したいという面もあると思います。そこで、新規事業の場合は別会社である子会社を設立し、新規事業に合った社内規定も作成し、運営するのがよいと思います。
次に、経理処理等事務手続の面から検討してみます。 子会社を設立すると、子会社は親会社とは別会社、つまり別法人になりますから、税務関係や労務関係、登記関係の資料は別々に作成しなければならず、事務手続は倍増します。 支店の場合は本店と同一会社ですから、本店と支店との取引は社内取引となります。たとえば、支店が本店から商品を仕入れても、極端な話、何も経理処理しなくても構いません。商品が社内を移動したに過ぎないからです。もっとも、きっちりとした本支店会計をして、本支店の採算を把握する場合は、社内移動であっても社内売上げ・社内仕入れの経理処理は必要ですが、全社的な把握でよいというのであれば、社内取引の経理処理は省略できます。 ところが、子会社となるとそうはいきません。親会社と子会社は別法人ですから、親会社と子会社との商品の移動は、正確に売上げ・仕入れの経理処理をしなければいけません。また、商品が親会社のものか、子会社のものかを明確にしなければならず、決算の際にも、親会社と子会社とは明確に区別して棚卸しをしなければいけません。 子会社の場合、さらに厄介なことがあります。たとえば、親会社の社員が子会社の仕事を兼任し、あるいは、親会社の備品や車両を子会社が使用したような場合、親会社の経費を合理的な基準で子会社に振り替えなければならないのです。 このように、子会社の形態をとった場合は、事務処理は煩雑になります。
新規事業の場合は子会社がよいと前述しましたが、子会社の形態をとるメリットは他にもあります。地域によって賃金格差がありますが、一般に都心部では、地方よりも賃金が高い傾向にあります。本社(本店)が都心部にあり、地方に新たな拠点を出す場合、支店の形態をとると、支店の賃金も本社と同一としなければいけませんが、子会社の形態をとると、子会社は独自の賃金体系を設定できますから、その地域の賃金水準に抑えることができます。
海外に拠点を出す場合は、子会社の形態をとることが多いようです。その理由は、海外で工場や営業所を設ける場合、許認可の関係で現地法人の方が受け入れられやすいからです。 以上のように、「支店か子会社か」という問題はさまざまな条件を勘案して決定されることになります。 |