目次 IV-Q18


第IV章 経営実務


Q18 銀行との付き合い方

Question 昨今の不況下、金融機関による貸し渋り・貸し剥がしが社会問題になっていますが、中小企業経営者として金融機関とうまく付き合うにはどのような点に留意すべきでしょうか。

Answer
ポイント
(1) まじめな経営者ほど仕入先や従業員に対する支払を止めてまでも金融機関への返済を優先しますが、苦しいときこそ金融機関に条件変更等を依頼すべきです。
(2) 金融機関を納得させるためには、経営者自身の私財も含めた大幅なリストラ策を断行するとともに、経営をガラス張りにする覚悟が必要です。
(3) 金融機関による債権放棄等の救済措置は大企業だけのものではなく、やる気のある中小企業なら実現の可能性は大いにあります。


 解 説 ▼
【1】金融機関との交渉は経営者として当然の役目

 最近は不況のせいで資金繰りに関する相談事例が多いのですが、本業で利益が出ているにもかかわらず、資金繰りに窮している中小企業が数多くみられます。そうした企業の試算表や金融機関への返済計画表を見て共通しているのは、金融機関への支払元本が利益に比べて過大であるということです。確かに、バブル期までは借換えや新規融資が通常だったので資金繰りに困ることは少なかったのでしょうが、貸し渋りにより新規融資が受けにくい現在の環境下では資金ショートを来たしてしまいます。

 日本の企業は高度成長期を経て金融機関からの借入れ比率が高いものの、土地神話で土地の含み益が生じていたため、多少の借入金など負担ではなかったという経緯から金融機関主導の取引が一般的であり、企業経営者が金融機関と商い交渉をする感覚自体がなかったと思います。現に、経営者として連帯保証人になっているにもかかわらず、金融機関との契約書の写し(通常は差入れ方式のため契約書元本は1通しか作成しない)さえ入手していない経営者が多いのが現実です。

 こうした背景から、取引先や従業員への支払を遅らせてでも金融機関への返済を優先するというケースが多く見られますが、本来信用リスクとして金利を取っている金融機関に条件緩和等の交渉をせず、直接的に企業の儲けに貢献している取引先や従業員にリスクを負わせることがいかに不条理かということに経営者は気付くべきです。

【2】金融機関を納得させる改善策が必要

 資金繰りに困ったときに最初に相談に行くのは金融機関であることはいうまでもありません。確かに、景気のよかった時代には自社だけ相談に行くことには気が引けたかもしれませんが、今や金融機関自体が不良債権の早期処理に躍起となっている時代です。少しでも早く交渉に行き、本業に専念できる資金繰りを実現することが企業が生き残るための基本です。

 もちろん、金融機関を納得させるだけの材料が必要なのはいうまでもありません。経済改革閣僚会議の言う「やる気と能力のある中小企業者に対する資金供給の円滑化」が企業再生のためには必要不可欠です。具体的には、私財も含めた大幅なリストラ策を経営者が明示する必要があり、有能な後継者がいればバトンタッチすることも検討すべきです。同時に経理面を強化して透明性・迅速性を金融機関にアピールする必要があり、月次の試算表・資金繰り表の作成は不可欠です。交渉内容は、通常の利益の範囲内で返済できるようにするといった常識的なことであり、経営者がパニックに陥りさえせず、税理士等の専門家に相談すれば前へ進む可能性が高いものです。

【3】特定調停

 平成11年に従来の民事調停を充実・強化した新たな調停の類型として特定調停が設けられました。法人も申立人になることができ、仲裁的な紛争解決手段として調停委員が経済的合理性ある調停条項を定めることができます。

 この制度を利用することで、過大債務の原因がバブル期の提案型融資によるものであれば貸し手責任を問うことができますし、債権者の大部分が金融機関の場合、民事再生法より手続的にも簡易で金融機関のみと話し合うことが可能なため、経営上の影響が少なくてすみます。また、取引先には影響を与えないため、本業での信頼を温存できると同時に取引先の経営への悪影響も防げます。金融機関も企業であり、責任問題からも、稟議が通るような経済的に合理性のある裁判所の調停案を必要とします。したがって、経営者が真摯な態度で金融機関との交渉に臨めば打開策は出てきそうです。ただ、特定調停の場合、債権者平等の原則が前提ですが、各行の貸出しの背景やスタンスに差異があるため、銀行ごとの個別交渉を積極的に進めることも必要になります。金融機関は、回収の極大化と回収期間の長さを天秤にかけるわけですから、大幅な債権カットを望む場合には残額の短期返済等の駆引きが重要となってきます。

 平成14年度の自己破産の申立件数は、はじめて年間20万件を突破しました。7年連続で過去最悪を更新しました。倒産件数も2万件に届く勢いで、バブル崩壊後の最悪を記録しています。こうした社会状況の中、特定調停は、個人も含みますが41万件超と2年でほぼ倍増しています。金融機関に破たん懸念先等の不良債権といったラベルを張られた企業でも、即刻退場ではなく治療して再生させるという社会的システムを作ることなしには、不良債権問題は終わらないと考えます。民事再生法に耐え得る体力のない中小企業に、任意整理のメリットである迅速性・柔軟性を生かしつつ透明性・合理性を確保でき、再生の機会を与える特定調停は、充分に利用価値がある制度といえます。

 

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