目次 II-Q7


第II章 税  法


Q7 税務調査

Question 税務調査の際に、税理士が敵なのか味方なのかわからなくなることがあります。経営者として最低限おさえておくべき税務調査のポイントを教えてください。

Answer
ポイント
(1) 税務調査には、強制調査(マルサ)と任意調査がありますが、多くの会社が受ける通常の調査は任意調査です。
(2) 税務調査にも、同族会社の公私混同の是正や第三者による内部管理体制のチェック等のメリットもあります。


 解 説 ▼
【1】税務調査と税理士の関係

 任意調査における税理士の立場という点でお話すると、調査における税理士の仕事は、税務署がダメと主張する部分を論理的にグレーゾーンに持ち込むこであると考えます。税務署の言いなりになるのではなく、筋を通すべきところは通す必要があり、税務署も納税者側に抗弁されると必ずしも強く反論できるわけではありません。しかし、会社側の完全な誤りの場合には、それを認めたうえでの今後の改善を含めた交渉ということにならざるを得ません。

 また、調査過程における調査官の指摘事項には、まとめて最後に反論するのではなくその都度反論しておかないと、調査官の判断が正しいと勝手に解釈されるおそれがあり、トラブルの元となりますので注意が必要です。修正申告を行う場合にも納税者自身が納得したうえで行うことが納税者、税務署、税理士の利益につながります。

 任意調査に法的根拠がないからといって、税務署からの調査依頼をすべて断るといった手段は使うべきではありません。もちろん、税務署員の態度にもよるのですが、一般的には、公務員として業務の必要性から税務調査を行おうとしているのですから、できる範囲の協力はした方がよいと思います。

 調査は通常2日から1週間ですが、その間業務を停止する必要はありません。ただし、調査開始時に会社側の予定を知らせておくほうがお互いに効率的です。また、調査時期や日数についても会社の都合を加味したうえであらかじめ約束しておくことも、不必要に長い調査を避ける意味で重要です。

 ところで、よい税務調査官は、帳簿ではなく人を見るといいます。調査でもいきなり帳簿を見はじめるのではなく、世間話から経営者の人柄、会社の概況を聞きだしたうえで、自分が経営者だったらどういう脱税方法を採るかを考えるそうです。また、調査期より進行年度現在の帳簿等を見たがります。そして、資材や営業の現場担当者への質問や業務資料を入手し、それを会計データと突き合わせます。中には会社役員の自宅の状況を前もって視察するケースもあるようですし、税務署へのタレコミ情報は意外に多いので、経営者は何ごとにつけ誠実な対応を心がける必要があります。タレコミをもとに税務調査を行ったところ1円単位まで情報どおりの不正経理があったというこわい話もあります。

【2】税務調査を前向きに考える

 税務調査というと一般にマイナスイメージがありますが、調査のコストは税金で賄われているのですから、納税者として何かのメリットを得るよう考え方を変えるのも一法です。中小企業の場合、外部監査はもちろんのこと内部監査もコスト的に行うのはむずかしいのが現状ですが、税務調査は国費で第三者による内部管理体制のチェックを行ってくれるうえに、同族会社の発展阻害要因といわれる経営者一族の公私混同の是正もしてくれます。実際、税務調査により従業員の不正が発覚したり、公私混同のツケが経営者に対する認定賞与とみなされ多額の税負担を強いられた結果、経営が是正されるようなケースもしばしば見られます。また、税理士としても、税務調査は腕の見せどころであり、税務調査を経て経営者との信頼関係を強固にするチャンスです。したがって、調査時に税理士に対する不満や不信があればはっきり言うべきであり、それでも充分なコミュニケーションがとれないのであれば、税理士の変更ということも考えてみるべきです。税務調査でさえも経営のために利用しようという貪欲な姿勢が経営者には大切だと思います。

 

目次 次ページ