目次 I-Q4


Q4 減価償却の意味

Question 減価償却はキャッシュフローに影響しない費用といわれますが、わかりやすく教えてください。また、減損とはどう違うのですか。

Answer
ポイント
(1) 会計専門用語が、実体をわかりにくくする一因です。
(2) 減価償却とは、正確な損益計算をする目的で行われる会計上の仮定に基づく手続です。
(3) 減価償却の効果が、損益計算とキャッシュフローの関係を理解する鍵です。
(4) 減損は固定資産の含み損を計上する会計手法です。


 解 説 ▼
【1】「減価償却」はどこからきた言葉か

 減価償却とは、英語のDepreciationの訳語で本来の意味は価値下落です。Price(価値)がDe(下落)することです。受験勉強でもすれば別でしょうが、最近流行のデフレ(Deflation)と同じく、言葉そのものからその実体を推し量るのはむずかしく、実感して慣れてはじめて意味がわかるものです。

【2】その年度の損益を適正に算出するのが目的

 絵画など特別なものを除いては、モノは使用したり、時間の経過とともに価値が下がるのは経験的にわかるところです。会計上の損益計算をするうえで当該事業年度の費用とされるのは、モノやサービスが費消されてそのあとの企業活動に貢献しなくなった価値です。したがって、建物、機械など土地を除く固定資産は金額的に多額かつ、その費消が長期間に及ぶため、何らかの会計上の仮定を設けて年度ごとの費用額を計算する必要があります。もし、消耗品のエンピツと同じように、固定資産である本社建物を購入した時に全額費用とすると、その年度が大赤字となってしまいます。損益計算書の要件である比較可能性が著しく阻害されてしまうことになります。その会計上の仮定こそが減価償却なのです。減価償却の具体的な方法は簿記の教科書に任せますが、主要な計算要因である使用可能期間(耐用年数)は中小企業の場合、税法の定めた仮定の年数に準じる場合がほとんどです。ただし、一定の要件を満たせば特別償却が別枠で認められる点に留意してください。

【3】減価償却の効果

 減価償却の目的が正確な損益計算を行うことにあるのは比較的理解しやすいのですが、その効果となるとわかりづらいところです。まず、固定資産は使用されることで売上げに貢献するわけですが、売上げは最終的にはキャッシュで回収されることになります。これを貸借対照表の資産の観点から見ると、固定資産が減価償却によって価値減少し(棚卸資産の場合は所有権が相手方に移りますが、固定資産の場合は所有権までは移行しません。)、売上げに貢献した分がキャッシュとして回収されるということです。固定資産の貢献が商品に付加価値を付けたということもできます。これを固定資産の流動化といいます。

 また、固定資産は、購入した時にキャッシュが支出されるのであり、減価償却によって費用化される時にはキャッシュの支出はありません。これを減価償却の自己金融作用といい、ここでの重要なポイントです。したがって、実際に固定資産が使用されている以上、会計上減価償却を行うか否かにかかわらず売上げは変わらないはずです。そうであれば、減価償却を行ったほうが会計上利益は減少し社外流出しないためキャッシュは残ることになります。なぜならキャッシュは購入した時に全額支出済みなのですから。減価償却を行わないと確かに利益が実態以上に計上され続けますが、税金によるキャッシュ支出が発生するほか、実際には減価し価値のない固定資産が過大に計上されたままとなります。銀行の不良債権と同じで、これでは健全な企業の資産を表現するものとは到底いえません。

【4】減損会計

 減損会計(impairment:損償)とは、固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理で、会計ビッグバンの一環として平成18年3月期に導入されます。回収可能性の測定手段としては将来キャッシュフローの現在価値と正味売却価額のいずれか大きい金額である回収可能価額を用います。ただし、回収可能額が帳簿価額を上回っていても、金融商品の時価評価のような帳簿価額の切上げ処理は行いません。なお、減価償却は減損損失控除後の帳簿価額を基に計算します。減損合計では設備や不動産投資の失敗が財務諸表に開示されます。企業経営者にとっては、経営意思決定の誤りが公表されるわけですが、減損会計による損失の発生を回避するあまり、将来の収益源となる設備投資を怠っては本末転倒となります。

 減損会計は、リストラと設備投資の適正な組合せをすることで固定資産の収益性を最大化する経営を求めることになります。

 会計ビッグバンによる時価および減損会計の導入は、株式や土地の含み益に依存してきた日本的経営が根幹から変わらざるを得ないことを意味します。中小企業のオーナー経営者の場合にも減損会計の考え方は充分に参考になると思います。貸借対照表の固定資産を洗い直してみてください。収益を生まない余分な資産はありませんか。今考えている設備投資は投資に見合ったキャッシュフローを生み出すものか充分検討しましたか。実際の会計処理はしないとしても今後の経営に減損会計の概念をぜひ導入してみてください。また、節税のポイント(Q8)との関連も参考にしてください。

 

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