目次 I-4


4.退職一時金と適格退職年金を区分する場合

 Question1-4

 当社は社内積立による退職一時金制度と適格退職年金制度を併用した退職金制度を採用しており、会社から支給する退職一時金と適格退職年金制度から支給する退職年金とは別枠になっています。当年度から退職給付会計を適用することとなりましたが、税務調整と申告書の記載の仕方を説明してください。なお、申告書に区分計算書を添付する予定です。


デ ー タ
(1)  退職一時金部分
(1) 退職給付引当金勘定の推移
 期首残高(×1年4月1日)

 当期繰入額
 当期取崩額
 期末残高(×2年3月31日)
 
200
 
540
40
700

前期末退職給与引当金の残高
(法人税法上の繰入限度超過額 35)
退職一時金に係る退職給付費用
退職に伴い支給額を取崩す
退職一時金に係る残高
(2) 期末退職給与の要支給額の推移
 前期末退職給与要支給額
 当期退職者に係る前期末退職給与要支給額
 当期末退職給与要支給額

500
80
580
(2)  適格退職年金部分
退職給付引当金勘定の推移
 期首残高(×1年4月1日)
 当期繰入額
 当期取崩額
 期末残高(×2年3月31日)

0
1,250
250
1,000

退職給付会計適用初年度のためゼロ
適格退職年金に係る退職給付費用
適格退職年金への拠出額
適格退職年金に係る残高
(3)  退職給付引当金の内訳は次のとおりです。
  期首残高 当期繰入額 当期取崩し額 期末残高
退職一時金部分 200 540 40 700
適格退職年金部分 1,250 250 1,000
合   計 200 1,790 290 1,700

区分計算書を添付している場合は、退職一時金部分についてのみ法人税法上退職給与引当金の規定が適用されます。


 Answer

1 退職一時金部分

 区分計算書を添付した場合、退職給付引当金のうち退職一時金に係る引当金部分だけを退職給与引当金に読み替えて法人税法の規定を適用します。これによれば退職一時金に係る退職給付費用のうち法人税法上の退職給与引当金繰入限度額を超える部分は損金不算入となります。また、退職による取り崩すべき金額はその退職者の前期末要支給額のうち、退職給与に達するまでの金額です(法令107(2)一)。なお、その退職者に係る前期末要支給額を超えて取り崩した場合でも、その取り崩した金額が退職給与の額に相当する金額以下である場合には目的外取崩しに該当しません(法基通11−4−15)。

〈繰入限度額の計算〉

 退職給与発生額基準(法令106(1)一)
  580−(500−38)=118…(イ)
退職給与発生額基準に
よる繰入限度額
期末在職使用人の
期末退職給与の自
己都合要支給額
期末在職使用人のうち前期末から引き続き在職している使用人の前期末退職給与の自己都合要支給額

 累積限度額基準(法令106(1)二)
 580×30%=174…(ロ) 累積限度額
 200−35−38=127…(ハ) 前期から繰り越された退職給与引当金勘定の金額

累積限度額
累積限度額基準に
よる繰入限度額
期末時の自己都合
退職給与要支給額
× 累積限度
割合
前期から繰り越された退職給与引当金勘定の金額

この金額がマイナスの場合はゼロとなります。(ロ)〉(ハ)だから累積限度額基準における繰入限度額は次のようになります。

  174−127=47…(ニ)

 なお、(ロ)の累積限度額の累積限度割合30%は平成12年4月1日から平成13年3月31日までの間に開始する事業年度に適用される割合です。
 法定累積限度割合は20%ですが、次のように経過措置が設けられています(法令106(1)二、附則(平成10年政令第105号)12(1))。

 平成12年4月1日〜平成13年3月31日の間に開始する事業年度
 ……30%
 平成13年4月1日〜平成14年3月31日の間に開始する事業年度
 ……27%
 平成14年4月1日〜平成15年3月31日の間に開始する事業年度
 ……23%

 (ハ)の前期から繰り越された退職給与引当金勘定の金額とは、前期以前において法人税法の規定により各事業年度の所得の計算上損金の額に算入された金額のうち、すでに法人税法の規定により取り崩すべきこととなった金額を除いた金額です(法法54(6)かっこ書)。

 繰入限度額の計算
 給与総額基準(法令106(2))の適用がない会社とした場合、繰入限度額は退職給与発生額基準と累積限度額基準のうちいずれか少ない方の金額となります。
 (イ)>(ニ)だから繰入限度額は47となります。

 繰入限度超過額
  540−47=493
 また、繰入限度超過額がある場合(いわゆる有税引当金のことをいいます)には、取崩し額のうち取り崩すべき金額である退職者の前期末要支給額を超える部分について、その繰入限度超過額を限度として、認容することができます(法基通11−4−16)。
 貴社の場合、当期退職者に係る前期末退職給与要支給額38を超える40を取り崩したのですから差引2(=40−38)を認容します。


2 適格退職年金部分

 区分計算書を添付した場合、適格退職年金部分に係る退職給付引当金の繰入れ又は取崩しは、法人税法上の退職給与引当金の繰入れ又は取崩しとして取り扱わないこととされます。したがって、退職給付引当金繰入額(退職給付費用)は全額損金不算入とし、退職給付引当金取崩し額は全額益金不算入として、法人税の所得計算に影響させないこととします。もとより、掛金拠出額は会計処理にかかわらず拠出した事業年度の損金に算入されます(法令135)。退職給付会計では掛金拠出の会計処理が費用計上取引となりませんので、掛金拠出額を減算留保することによって損金に算入することになります。

別表4
区  分 総  額 処  分
留  保 社外流出
(1) (2) (3)

 
退職一時金に係る退職給与引当金繰入限度超過額 493 493  
適格退職年金に係る退職給付費用否認 1,250 1,250  

 
退職給与引当金繰入限度額戻入益認容  
適格退職年金に係る掛金拠出額認容 250 250  

別表5(1)
区  分 期首現在利
益積立金
当期中の増減 当期利益処分
等による増減
翌期首利益
積立金額
(1) (2) (3) (4) (5)
退職給付引当金(退職一時金分) 35 493   526
退職給付引当金(適格退職年金分)   250 1,250   1,000

別表11(3)
別表11(3)

 別表5(1)の(5)の退職給付引当金(退職一時金)に係る翌期首利益積立金526と別表11(3)の(20)(退職給与引当金の期末現在額のうち前期末までに益金の額に算入された金額)と(13)(当期の限度超過額合計)の合計526(33+493)が一致します。別表11(3)の(26)の期末退職給与引当金174は、退職給付引当金の退職一時金部分(19)700と退職給付引当金(退職一時金)の翌期首利益積立金額(別表5(1)(5))526の差額と一致します。この金額174は退職給付引当金のうち損金算入により引き当てられた部分を意味しています。

 なお、このようなケースの各別表の記載方法はいくとおりもあると思いますが、ひとつのサンプルとして挙げています。


3 厚生年金基金制度の場合

 外部拠出型退職年金制度のもう一方の形態である厚生年金基金制度を導入している場合も、適格退職年金制度を導入している場合と同様に、厚生年金基金の掛金又は徴収金を計算対象月の末日に損金算入することができます(法基通9−3−2)。したがって、申告書の記載は上記と同様になります。

 

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