目次 第1章 1-Q1


第1章 社会保険上の取扱い


1 はじめに


Question
 海外駐在に当たっての日本の社会保険(厚生年金・健康保険等)に関する留意点

 このたび、当社の社員A氏を3年間の予定で海外駐在させます。
 A氏が海外駐在中の日本の社会保険上の取扱いについて教えてください。


Answer


 出向元である日本企業と、A氏がどのような雇用関係があるのか、またA氏の給与が日本又は海外のどちらの企業から支払われるのかで、社会保険等の取扱いが異なります。



1 在籍出向の場合

(1)国内企業(出向元)から給与の一部又は全部が支払われている場合
  〜日本の社会保険資格は継続する〜


 日本企業で雇用関係が継続したまま海外で勤務する場合、つまり「在籍出向」の場合で、出向元から給与の一部(全部)が支払われているのであれば、出向元との雇用関係は継続しているとみなされますので、海外勤務者の健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は継続します。被保険者資格が継続している以上、保険料の負担(出向元及び本人)は発生します。保険料の対象となる給与は、原則として出向元から支払われている賃金だけなので、給与の一部のみが出向元から支払われる場合は、国内で勤務していたときよりも、保険料の負担は少なくなると思われます(この場合、将来受給できる金額は、海外勤務をしない場合と比較すると、少なくなる可能性があります。)。

(2) 国内企業から給与が全く支給されていない場合(海外企業から給与が全額支払われる)
  〜日本の社会保険資格の継続は極めて難しい〜

 在籍出向であっても、出向先から給与の全部が支払われ、出向元から給与が全く支払われないのであれば、出向元との雇用契約は継続していないとみなされる可能性があります。その場合、健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は喪失します。そのため、扶養家族を日本に残して海外勤務した際、扶養家族の社会保険等について対応策を考える必要があります。


2 移籍出向の場合
  〜日本での社会保険資格は喪失〜

 移籍出向とは、日本の出向元との雇用関係をいったん終了させ、勤務地国の現地法人等との雇用関係のみとなるケースを指します。つまり、出向元である日本企業との雇用関係がなくなるため、健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は喪失します。この場合も、扶養家族を日本に残して海外勤務した際、扶養家族の社会保険について対応策を考える必要があります。

 以上をまとめたのが次の【図表1−1】です。

【図表1−1】海外勤務者の社会保険と労働保険
  被保険者資格が継続している場合 被保険者資格を喪失した場合
在籍出向で国内企業から給与が一部又は全部支払われている場合
在籍出向で国内企業から給与が全く支払われない場合
移籍出向の場合
健康保険 継続(日本帰国時も国内勤務時同様、健康保険が利用できる。海外では「療養費」扱いとなり、海外でかかった療養費はいったん本人が全額立替えし、後日一部療養費として健康保険から支給される(ただし、支給される療養費は、実際に支払った金額ではなく、日本の医療機関で治療を受けた場合の保険診療料金を基準として計算される。)。) 継続できない
<対応策>
(1)  任意継続被保険者手続を行う
 ただし、健康保険の被保険者資格喪失日から最長2年間しか加入できない。
(2)  国民健康保険に加入
 市区町村に居住する者が対象のため、住民票を除票していると加入できない。
介護保険 海外では介護保険サービスは適用除外。ただし、住民票を除票していれば、一部例外を除き、介護保険料は支払う必要がない。 海外では介護保険サービスは適用除外。保険料も不要。(ただし、国民健康保険に加入している場合は、住民票の除票ができないため、国民健康保険料と併せて介護保険料も納付しなければならない。)
厚生年金 継続(国内払い給与に対応した保険料を支払う。) 継続できない
<対応策>国民年金に任意加入
雇用保険 継続するが、失業給付等は帰国時しか受給できない。 原則的には継続できない。
労災保険 適用対象外(労災保険は属地主義のため、海外勤務時は原則的に対象外)
<対応策>労災保険の海外派遣者特別加入制度を利用
同左
(移籍出向の場合は、労災保険の特別加入もできない。)

 

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