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5 自己株式の会計処理

【1】 自己株式の基本的考え方

 自己株式は、これを資産としてみる考え方と、資本の控除としてみる考え方があります。


(1) 資産説

 自己株式を資産とみる考え方は、会社が自己株式を取得したとしても、通常の有価証券と同様に資産を取得すると考えるものです。この考え方によれば、通常の有価証券を取得したのと同様に、その取得価額をもって、貸借対照表の資産の部に計上することになります。平成13年商法改正までは、この考え方が採用されていました。

 会計上、個別財務諸表上では、商法との調整から資産計上し、連結財務諸表では資本の控除項目として処理していました。


(2) 資本の控除説

 自己株式を資本の控除としてみる考え方は、会社が自己株式を取得する行為は、会社と株主との資本取引であり、株主に対する資本の払戻し取引とみる考え方です。この考え方は、自己株式の取得を資本の払戻しと考えており、資本の控除項目として処理します。

 会計上は、従来からこの考え方を採用しており、平成13年商法改正により、商法上、自己株式を資本の控除項目として取扱うことが明確化されました。


【2】 自己株式の会計処理

 自己株式に係る会計処理については、「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)、「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準適用指針」(企業会計基準適用指針第2号)がそれぞれ公表されて、取扱いが明確になっています。企業会計基準委員会により、平成18年5月に会社計算規則の施行に併せて、平成14年2月21日に公表された企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(最終改正平成17年12月27日)及び企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(最終改正平成17年12月27日)について、所要の改正が行われました。

 主な改正内容は、次のとおりです。

1. 自己株式の消却(改正会計基準第11項及び第12項)
   改正前会計基準では、消却の対象となった自己株式の帳簿価額を、資本剰余金又は利益剰余金のいずれから減額するかは、会社の意思決定に委ねることとされていましたが、会社計算規則においては、優先的にその他資本剰余金から減額することが規定(会社計算規則第47条第3項)されたため、改正会計基準では、これに合わせることとしました。
 また、自己株式を消却したことにより、会計期間末におけるその他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、その他資本剰余金をゼロとし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額することとしました。
2. 利益剰余金が負の残高の場合のその他資本剰余金による補てん(改正会計基準第61項)
   会社法では、株主総会の決議(定時総会に限られない。)により、剰余金の処分として、剰余金の計数の変更ができることとされた(会社法第452条)ことに伴い、改正前会計基準で認められていた「利益剰余金が負の残高の場合のその他資本剰余金による補てん」について、改正会計基準では、その補てんの対象となる利益剰余金の額は、資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止の観点から、年度決算時の負の残高であることが明記されました。
3. 自己株式の処分と新株の発行が同時に行われた場合の取扱い(改正適用指針第11項)
   会社計算規則では、自己株式の処分と新株の発行が同時に行われた場合の資本金等増加限度額などの算定方法が定められた(会社計算規則第37条)ため、改正適用指針では、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は会社法の規定に基づく旨を明記するとともに、自己株式の処分と新株の発行が同時に行われた場合の会計処理に関する設例が追加されました。

 自己株式の会計処理のポイントは、次のとおりです。


(1) 自己株式の取得及び保有

 取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します。また、期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します。


(2) 自己株式の処分

 自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上し、自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額します。


(3) 自己株式の消却

 自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。


(4) その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い

 会計処理の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します。


(5) 自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定

 自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定します。


(6) 自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用

 自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します。


(7)  連結財務諸表における子会社及び関連会社が保有する親会社株式等の取扱い

イ.  連結子会社が保有する親会社株式は、親会社が保有している自己株式と合わせ、純資産の部の株主資本に対する控除項目として表示する。株主資本から控除する金額は親会社株式の親会社持分相当額とし、少数株主持分から控除する金額は少数株主持分相当額とします。

ロ.  連結子会社における親会社株式の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社持分相当額)の会計処理は、親会社における自己株式処分差額の会計処理と同様とし、少数株主持分相当額は少数株主利益(又は損失)に加減します。

ハ.  持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社が親会社株式等(子会社においては親会社株式、関連会社においては当該会社に対して持分法を適用する投資会社の株式)を保有する場合は、親会社等(子会社においては親会社、関連会社においては当該会社に対して持分法を適用する投資会社)の持分相当額を自己株式として純資産の部の株主資本から控除し、当該会社に対する投資勘定を同額減額します。

ニ.  持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社における親会社株式等の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社等の持分相当額)は、親会社における自己株式処分差額の会計処理と同様とし、また、当該会社に対する投資勘定を同額加減します。

 

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