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1 自己株式取得規制の経緯

(1) 明治32年から昭和56年まで

 明治32年の旧商法制定以来、自己株式の取得は原則禁止されていました。しかしその一方で、昭和25年までの商法改正により、自己株式の取得の例外として、(1)株式の消却のためにするとき、(2)合併または営業の全部を譲り受けるとき、(3)会社の権利実行に当たりその目的達成のため必要なとき、(4)端株主、営業譲渡に反対する株主等の株式買取請求権の行使により会社が株式を買い取るとき、等の規定が整備されました。それから30年以上経過した昭和56年の商法改正により、(5)発行済株式総数の20分の1までの自己株式の質受け等が認められました。この期間は、自己株式の取得は、極めて限定された場合に認められていました。


(2) 平成6年から平成13年まで

 しかしながら、バブル経済の崩壊後、株式市場の需給状況の悪化への対策及び従業員持株会制度の運営の実態等への適応から、自己株式規制の緩和を求める声が高まり、それに対応するため、平成6年の改正において、新たに以下の自己株式の取得事由が追加されました。

 ・使用人に譲渡するための自己株式の取得
 ・定時株主総会の決議に基づく利益消却のための自己株式の取得
 ・ 株式の譲渡制限会社で株式の譲渡人又は譲受人から買受人指定の請求があった場合の自己株式の取得

 平成9年には、資本効率の向上・株式市場の需給調整・株式持合いの受け皿機能等、資本市場の効率化と活性化のために、自己株式の消却をより機動的に行えるようにする目的で「株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律」が制定され、更に平成10年に同法律が改正され、資本準備金による株式消却も認められました。

 また、平成9年の商法改正で経済界からの要請によりストック・オプション制度が導入され、取締役に譲渡するための自己株式取得が認められ、更に、その後の商法改正により新たに導入された株式交換、株式移転、会社分割等事業再編手法に対する反対株主の買取請求に伴う自己株式取得についても認められました。

 ただし、これらの改正を実施しても、自己株式の取得は、原則禁止されていました。この理由は、次の5つです。

 (1)  会社の資本充実・維持の原則に反する

 自己株式の取得は、株式と引換えに会社の財産を払い戻すことであり、株主から会社に対して、過去に払込みされた出資金を返還するのと同様の経済的効果をもつため、資本充実の原則に反する。

 (2)  不公正な株式取引を誘発する

 自社の重要な情報を保有する会社自身が自社の株式を取得、売却するということは、市場における株式取引の公正を害し、会社による株価操作により、一般投資家が不利益を被るおそれがある。

 (3)  株主平等原則に反する

 会社が自由に自己株式を売買できれば、特定の株主を選んで自己株式を取得・売却したり、高額での買取り、不当な安値で売却等が可能であり、他の株主の権利を害するおそれがある。

 (4)  自己株式は会社にとって価格下落リスクのある財産である

 会社の業績が悪化すると、保有する自己株式の価値も下落し、その結果、会社の業績悪化と資産価値下落によって、会社は二重の損害を受けることになる。

 (5)  経営陣の地位確保に利用される。

 会社が保有する自己株式には、議決権がない。そのため、経営者が会社資金を利用して自己株式を取得する、または、その株式を経営者に都合の良い株主に割り当てることにより、経営者は、自己株式を利用することにより、会社支配を維持することが可能となり、結果として株主の利益を害するおそれがある。


(3) 平成13年改正以降から会社法施行まで

 平成13年6月の「商法等の一部を改正する等の法律」(平成13年法律79号)により、自己株式取得および保有規制の見直しがなされました。自己株式の取得・保有に関してこの「原則禁止」規定が、一定の手続及び財源に関する規制を条件として、「原則容認」へと180度転換し、期間や数量の制限なく保有可能となりました。また、一方で、自己株式の処分については、原則として新株の発行の規定を準用することとし、手続が明確化されました。

 会社法では、平成13年6月改正を原則引継いだうえで規制を合理化し、自己株の取得は、法が定める一定の場合に限って認められます。したがって、取得には手続・方法・財源の規制があるのは従来どおりです。

 

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