目次 第7章


第7章 相続税/贈与税

1.相続税・贈与税の概要 7-1

 相続税とは、死亡による財産の移転により課される税をいいます。

 贈与税とは、個人間における財産の移転により課される税をいい、相続税の補完的な性格を有しているといえます。


(1) 納税義務者

 次に掲げる者は相続税または贈与税を納める義務があります。

 A  相続、遺贈または贈与により財産を取得した個人で、その財産を取得した時において国内に住所がある者

 B  相続、遺贈または贈与により財産を取得した日本国籍を有する個人で、その財産を取得した時において国内に住所がない者で一定の者

 C  相続、遺贈または贈与により国内にある財産を取得した個人で、その財産を取得した時において国内に住所がない者


(2) 申告期限

 [1]  相続または遺贈により財産を取得した者は納付すべき相続税がある場合には、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に納税地の所轄税務署長に申告書を提出しなくてはなりません。

 [2]  贈与により財産を取得した者は、納付すべき贈与税がある場合には、その年の翌年2月1日から3月15日までに納税地の所轄税務署長に申告書を提出しなくてはなりません。


(3) 納付

 期限内申告書を提出した者は、これらの申告書の提出期限までに、これらの申告書に記載した相続税額または贈与税額に相当する相続税または贈与税を国に納付しなければなりません。


(4) 物納及び延納

 相続税及び贈与税は金銭一時納付が原則ですが、納付税額が巨額になることや取得資産が金銭以外の資産の占める割合が大きいことなどから、金銭で一時に納付することを困難とする事由が考えられるため、一定の要件により延納及び物納を認めています。

 延納は、納税義務者の申請により納付を困難とする金額を限度として税務署長が許可することができるものです。 物納は、延納によっても金銭で納付することを困難とする場合に納税義務者の申請によってその納付を困難とする金額を限度として税務署長が許可することができるものです。なお、物納は相続税についてのみ適用されるものです。


(5) 延納中に延納困難となった場合に物納を認める制度の創設

 従来は、一度延納を選択すると物納に変更することは認められていませんでしたが、平成18年の改正により相続税を延納中の者が、資力の状況の変化等により延納による納付が困難となった場合には、申告期限から10年以内に限り、延納税額からその納期限の到来した分納税額を控除した残額を限度とし、物納を選択することができます。

 この場合の物納財産の収納価額は、その物納に係る申請時の価額とします。ただし、税務署長は、収納時までにその物納財産の状況に著しい変化を生じたときは、収納時の現況によりその物納財産の収納価額を定めることができることとなりました。


(6) 物納制度の改正

 [1]  管理処分不適格財産の明確化

 これまで、相続税法基本通達(42−2)で「管理又は処分をするのに不適当な財産」として例示列挙されていたものが、平成18年の改正により相続税法施行令第18条、相続税法施行規則第21条により限定列挙されました。これにより、物納不適格財産に該当しないものは、原則として物納が認められることとなりました。

 改正後は、物納不適格財産に該当せず、かつ、その他の申請要件を充足していれば、物納申請をしたが審査の結果、物納申請後に不適格とされることはなくなりました。租税法律主義の観点から納税者にとって予測可能性が向上しました。

 また、添付書類の不足等を理由に、申請後に追加資料の提出を要求され、物納申請に時間を要していましたが、原則として物納が認められることになり、これらの手続に要する時間が短縮し、事務が迅速に処理されると期待されます。

 [2]  物納劣後財産の新設

 物納劣後財産とは、物納財産ではあるが他の財産に対して物納の順位が後れるものとして一定のものをいいます。

 (注) 物納劣後財産の例
 ・法令の規定に違反して建築した建物及び敷地
 ・地上権、永小作権その他用益権の設定されている土地
 ・接道条件を充足していない土地(いわゆる無道路地)
 ・都市計画法に基づく開発許可が得られていない道路条件の土地
 ・法令、条例の規定により、物納申請地の大部分に建築制限が課される土地
 ・維持又は管理に特殊技能を要する劇場、工場、浴場その他大建築物及びその敷地
 ・土地区画整理事業の施行地内にある土地で、仮換地が指定されていないもの
 ・生産緑地の指定を受けている農地及び農業振興地域内の農地
 ・市街化調整区域内の土地等、市街化区域外の山林及び入会慣習のある土地
 ・相続人が居住又は事業の用に供している家屋及び土地、忌み地
 ・休眠会社の株式

 [3]  物納許可に係る審査期間の法定

 税務署長は、物納の許可の申請書の提出期限の翌日から3月以内にその申請に係る税額の全部または一部について物納財産ごとにその申請に係る物納の許可をし、またはその申請を却下します。改正前は、審査期間が明確には示されていませんでした。

 [4]  物納手続の明確化

 物納財産を国が収納するために必要な書類には、物納財産の種類に応じ、登記事項証明書、測量図、境界確認書、要請により有価証券届出書等を提出する必要があります。

 [5]  物納申請の却下と再申請

 平成18年度の改正では、物納申請財産が、(1)物納不適格財産に該当する場合、(2)物納劣後財産に該当する場合で、他に物納適格財産を有するときは、税務署長は却下することとし、この場合の申請者は、その却下の日から20日以内に、一度だけ、物納の再申請をすることができることとなりました。

 [6]  物納に係る利子税の整備

 物納により納付が完了するまでの期間について利子税の負担を求めます。ただし、審査事務に要する期間については、利子税が免除されます。平成18年の改正により創設されました。

 [7]  条件付物納許可制度の新設

 物納を許可する際に、一定の条件を付し、後日その条件に違反した場合には、5年以内に限り、いったん許可した物納を取り消すという制度が創設されました。

 この場合の「条件」の具体例としては、次のようなものがあります。

A 後日において汚染地であったことが判明した場合に必要な措置を講ずること

B 有価証券を売却するために必要な書類を提出すること


(7) 物納費用の負担者

 物納を行うためには、別途費用が必要となりますが、物納費用は納税者である物納申請者つまり、個人の負担となり、国に負担を求めることはできません。

(物納費用の例)
  A 相続登記費用
  B 地積測量図の作成費用
  C 建物平面図の作成費用
  D 工作物あるいは埋設物などの撤去費用
  E 物納実務を担当するコンサルタントに対する報酬
  F その他

 これらの物納費用は相当な額になることも予想されます。物納費用については、被相続人の理解が得られるのなら、相続税対策の一環として、相続開始前に被相続人の負担において準備すれば、その支出分に見合う相続税の軽減を図ることができます。

 平成18年の税制改正により、審査期間が法定化されたことに対応するため、土地の筆数が多い場合には書類の整備等が間に合わない可能性があります。提出期限等の延長制度はあっても、物納の手続には時間を要しますので、相続開始前に被相続人が物納準備を行う方がより賢明と思われます。


2.相続開始から相続税申告までの実務の流れ 7-2

 一般的な申告までの手続

  (1)  被相続人の死亡(相続開始)
   
  (2)  通  夜
   
  (3)  葬  儀
   
  (4)  初七日法要
   
  (5)  香典返し
   
  (6)  四十九日忌法要
   
  (7)  相続の放棄または限定承認(死亡後3月以内)
   
  (8)  所得税の申告と納付(死亡後4月以内)
   
  (9)  遺産や債務の調査
   
  (10)  遺産の評価・鑑定
   
  (11)  遺産分割協議書の作成
   
  (12)  相続税の申告書の作成
   
  (13)  相続税の申告と納付(死亡後10月以内)


3.土地等を所有する場合の土地の財産評価 7-3

 土地等の評価方法は、下記の方法によります。

(1) 土地等の評価

 [1]  宅地の評価方法は、路線価方式または倍率方式により評価します。

 [2]  貸宅地の評価方法は、宅地の評価額から宅地の評価額に借地権割合を乗じたものを控除する方法によります。

 [3]  借地権の評価方法は、宅地の評価額に借地権割合を乗じて計算します。

 [4]  貸家建付地の評価方法は、宅地の評価額から宅地の評価額に借地権割合と借家権割合を乗じたものを控除する方法によります。

 [5]  貸家建付借地権の評価方法は、宅地の評価額に借地権割合を乗じたものから宅地の評価額に借地権割合と借家権割合を乗じたものを控除する方法によります。

 [6]  定期借地権に評価方法は、原則として、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益及びその存続期間を基にして評定した価額によって評価します。


(2) 小規模宅地等の減額

 被相続人等の生活基盤維持のためや、その処分には相当の制約を受けることが通常であることから、一定の要件を満たす宅地については、下記の優遇制度が設けられています。

 個人が相続または遺贈により取得した財産のうちに、その相続開始の直前において、その相続もしくは遺贈に係る被相続人等の事業の用もしくは居住の用に供されていた宅地等で建物もしくは構築物の敷地の用に供されているものまたは国の事業の用に供されている宅地等で建物の敷地の用に供されているもので一定のもの(以下、「特例対象宅地等」という)がある場合には、その相続または遺贈により財産を取得した者に係るすべての特例対象宅地等のうち、その個人が取得をした特例対象宅地等またはその一部でこの規定の適用を受けるものとして選択したもの(以下、「選択特例対象宅地等」という)については、限度面積要件を満たす場合のその選択特例対象宅地等(以下、「小規模宅地等」という)に限り、相続税の価額に算入すべき価額は、その小規模宅地等の価額に次に掲げる小規模宅地等の区分に応じそれぞれに定める割合を乗じて計算した金額とします。

 A  特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等、国営事業用宅地等である小規模宅地等及び特定事業用宅地等である小規模宅地等  20%

 B  A以外の小規模宅地等  50%

 なお、この規定は、未分割である場合には適用されません。また、この規定の適用を受ける場合には、税務署長がやむを得ない事情があると認める場合を除き、期限内申告書(期限後申告書及び修正申告書を含む)に一定の事項を記載し、かつ、一定の書類を提出しなければなりません。


4.その他の財産評価 7-4

 その他の財産の評価方法は下記の方法によります。


(1) 建物

 [1]  家屋の評価方法は、固定資産税評価額に基づき評価します。

 [2]  建築中の家屋の評価方法は、費用現価に70%を乗じて評価します。

 [3]  附属設備等の評価

   家屋と構造上一体となっている設備の評価は、その家屋の価額に含めて評価します。

   門、塀等の設備の評価方法は、附属設備の再建築価額から経過年数に応ずる減価の額を控除した価額により評価します。

   庭園設備の評価方法は、調達価額に70%を乗じて評価します。

 [4]  貸家の評価方法は、家屋の評価額から家屋の評価額に借家権割合を乗じた金額を控除する方法により評価します。

 [5]  借家権の評価方法は、家屋の評価額に借家権割合を乗じて評価します。


(2) 保険

 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金または損害保険契約の保険金を取得した場合においては、その保険金受取人について、その保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額に係る保険料で被相続人の死亡時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分の価格により評価します。

 なお、保険金を取得した者が相続人である場合には、500万円に法定相続人の数を乗じて計算した金額に相当する金額について、非課税の適用を受けることができます。


(3) 有価証券

 有価証券の評価方法は下記の方法によります。

 [1]  上場株式

 上場株式の評価方法は、課税時期の最終価格と課税期末以前3ヶ月間の毎日の最終価格の月平均額のいずれか少ない価格に相続または遺贈により取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。なお負担付贈与等の場合には課税時期の最終価格に取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。

 [2]  気配相場のある株式

   登録銘柄等の評価方法は、上場株式と同様に課税時期の最終価格と課税期末以前3ヶ月間の毎日の最終価格の月平均額のいずれか少ない価格に、相続または遺贈により取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。なお、負担付贈与等の場合には、課税時期の最終価格に取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。

   公開途上にある株式の評価方法は、公開価格に相続または遺贈により取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。その他の場合には、課税時期以前における取引価格等を勘案した価格に、相続または遺贈により取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。

   国税局長の指定する株式の評価方法は、課税時期の取引価格と類似業種比準価額との平均額を、相続または遺贈により取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。ただし、その平均額が課税時期の取引価額を超える場合には、課税時期の取引価格に相続または遺贈により取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。なお、負担付贈与等の場合には、課税時期の取引価格に、取得した株式数を乗じた金額をもって評価します。

 [3]  取引相場のない株式

   一般の評価会社の場合には、同族株主等が取得したときには原則的評価方法により評価します。同族株主以外の株主等が取得したときには特例的評価方式により評価します。原則的評価方法とは、下記の区分に応じそれぞれに定める方法をいいます。

・大会社: 「類似業種比準価額」と「純資産価額」のいずれか低い方
・中会社: イ 「純資産価額」
   「類似業種比準価額」と「純資産価額」のいずれか低い方×L+「純資産価額」×(1−L)
  ハ イとロのうちいずれか低い方
・小会社: イ 「純資産価額」
  ロ 「類似業種比準価額」×0.5+「純資産価額」×0.5
  ハ イとロのうちいずれか低い方

 特例的評価方式とは、原則的評価方法と「配当還元方式」により計算した金額のうちいずれか低い金額のことをいいます。

   特定の評価会社の株式

(略)


(4) 特定事業用資産の減額の利用

 被相続人の親族が医療法人の出資持分を相続、遺贈または相続時精算課税の適用を受ける贈与により取得した場合において、相続開始時から申告期限まで引き続きその医療法人の出資持分を有している場合、その他一定の場合には特定事業用資産の減額の規定を適用し、その医療法人の出資持分の評価額の100分の10を減額することができます。

 この規定の適用を受ける場合には、税務署長がやむを得ない事情があると認める場合を除き、期限内申告書(期限後申告書及び修正申告書を含む)に一定の事項を記載し、かつ、一定の書類を提出しなければなりません。

 なお、この規定は、相続税の期限内申告書の提出期限までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない特定事業用資産については、適用されません。

 ただし、その分割されていない特定事業用資産が申告期限から3年以内に分割された場合には、この限りではありません。

 原則として小規模宅地等の減額の規定の適用を受けている場合には、特定事業用資産の減額の適用を受けることはできません。従って、特定事業用資産の減額を利用した方が有利になるのか、小規模宅地等の減額を利用した方が有利になるのか、比較検討することが必要となります。


(5) 葬式費用・債務

 財産の価額から控除すべき債務の額は、相続開始時に現に有する債務で確実と認められるものに限ります。しかし、葬式費用は相続開始時に現に有するものではありませんが、必然的に発生するものであることから控除が認められています。

 また、被相続人に係る公租公課については、被相続人の死亡の際に納税義務が確定しているもののほか、被相続人の死亡後に相続税の納税義務者が納付しまたは徴収されることとなったものも含みます。


5.医療法人出資持分に対する評価 7-5

医療法人の出資持分の評価方法

大会社 類似業種比準価額と純資産価額のいずれか少
中会社 類似業種比準価額×0.9+純資産価額×(1−0.9) と純資産価額のいずれか少
類似業種比準価額×0.75+純資産価額×(1−0.75)と純資産価額のいずれか少
類似業種比準価額×0.6+純資産価額×(1−0.6) と純資産価額のいずれか少
小会社 純資産価額と類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5のいずれか少

 医療法人の場合には、医療法人出資持分に対する課税に留意する必要があります。

 医療法人の出資持分については、「医療法人に対する出資の価額は、取引相場のない株式に準じて計算した価額によって評価する」とされています。

 具体的には、通常の取引相場のない株式と同様に、類似業種比準価額と純資産価額とを用いて評価します。なお、医療法人の出資持分については、株式の取得者とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50%以下である場合の20%評価減の適用はありません。

 

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