目次 第4章


第4章 所得税

 所得税は個人の所得に対して課税する税金です。通常の給与所得者であれば、年末調整により課税関係は完了しますが、開業医の場合、事業所得に該当しますので確定申告が必要になります。

 法人税においても同様ですが、所得税においても医業として他の事業との相違がそれほどあるわけではありません。制度としては社会保険診療報酬支払基金からの診療報酬に係る源泉徴収、社会保険診療報酬に関する概算経費率の特例及び医療機器や建替え病院用建物等に関する特別償却制度が挙げられますが、所得税については、その他個人事業につきものの家事関連費及び専従者給与がありますので、これらについて述べていきます。

 なお、特別償却に関しては法人税と同様になります。


1.家事関連費の必要経費不算入 4-1

 個人診療の場合、自己の生活費と事業に係る経費について共通するものや、区分が困難な経費があります。そのような家事関連費のうち次に掲げるものについては、所得税法上必要経費に算入できないものとして規定されています。

 A  家事上の経費及びこれに関連するもので政令で定めるもの

 B  所得税(不動産所得、事業所得、山林所得を生ずべき事業を営む者が納付する確定申告税額の延納に係る利子 税で、その事業についてこれらの所得に係る所得税の額に対応するものとし政令で定めるものを除く)

 C  所得税以外の国税に係る延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税並びに印紙税法に規定する加算金

 D  地方税法の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税及び特別区民税を含む)

 E  地方税法の規定による延滞金、過小申告加算金、不申告加算金及び重加算金

 F  罰金及び科料並びに過料

 G  損害賠償金(これに類するものを含む)で政令で定めるもの


(1) 家事上の経費

 個人の診療所の場合、本人の生活費と診療所の経費との境界が曖昧になりがちです。自宅兼診療所の場合、家事上の経費として例えば、診療所の家賃・水道光熱費・ガソリン代等の車両費などがあげられますが、これらについては以下に掲げる金額については上記の必要経費不算入の規定から除かれ、必要経費に算入することが認められています。

 [1]  青色申告者の場合

 取引の記録等に基づいて事業の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分に相当する金額

 [2]  白色申告者の場合

 家事関連費の主たる部分(支出金額の50%超の金額)が業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額

 上記のように規定されていますが、通達において白色申告者についても業務上必要である部分を明らかに区分できる場合には、その部分が支出金額の50%以下である場合でも必要経費に算入することを認めているため、実質的には経費のうち業務上必要な部を区分できる場合には、青・白問わず必要経費に算入することができます。


(2) 租税公課

 租税公課については、所得税及び住民税(延滞金や加算金を含む)は個人の所得に課税するため必要経費となりません。その他の租税で業務に関連するものについては罰則的な意味合いをもつ延滞金・加算金などを除き必要経費に算入することができます。また、不動産取得税や自動車取得税などの資産の取得に係る租税については、必要経費とするか資産の取得価額に算入するかは選択することができます。


(3) 損害賠償金等

 損害賠償金等(損害賠償金のほか、慰謝料・示談金・見舞金の名目を問わず他人に与えた損害を補填するために支出する一切の費用を含む)に関しては、その行為の主体及び内容によって取扱いが規定されています。

 事業主に故意または重大な過失がある場合の損害賠償金等に関しては、業務関連かどうかを問わず必要経費に算入することはできませんが、事業主に責任がない場合には業務関連でない場合を除き必要経費に算入することができます(一定の場合従業員に対する給与となる)。


2.青色事業専従者給与・事業専従者控除 4-2

 個人事業に関して配偶者その他の親族等がその事業に従事している場合に、同一生計の親族等に支払った給与等に関しては、家事費との区別がつきにくいため必要経費に算入される金額についての制限があります。青色申告の場合には、青色事業専従者給与、白色申告の場合には事業専従者控除としてそれぞれ必要経費に算入することができます。


(1) 青色事業専従者給与

 青色申告書を提出している事業主と同一生計の配偶者その他の親族で年末における年齢が15歳以上の者が、専らその営む事業に従事した場合においては、所轄税務署長に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出した場合、その届出書に記載されている金額の範囲内の金額で支払った金額を青色事業専従者給与として必要経費に算入することができます。ただし、届出書に記載できる金額はその事業に従事した期間その他の状況に照らし、一般的な水準を超えない金額の範囲内とされています。


(2) 事業専従者控除

 青色申告書を提出していない事業主と同一生計の配偶者その他の親族で、年末における年齢が15歳以上の者が、その営む事業に専ら従事した場合においては、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費に算入することができます。この場合には実際の給与の支払いの有無にかかわらず必要経費となります。

 A  500,000円(専従者が事業主の配偶者である場合には860,000円)

 B  (事業所得の金額+不動産所得の金額+山林所得の金額)/(事業専従者の数+1)


3.社会保険診療報酬に対する概算経費率の適用(措法26) 4-3

 社会保険診療報酬に係る経費については、法人・個人を問わず、実際に支払った経費の額か、または一定の方法で計算した概算経費の金額のいずれか多い金額を必要経費とすることが認められています。この規定の適用が受けられるのは、その年中の社会保険診療報酬の金額が5,000万円以下であり、かつ申告書にその金額の計算に関する記載がある場合に限ります。


(1) 社会保険診療報酬に係る実額経費の計算方法

 この規定の適用があるのは、社会保険診療報酬に関する経費部分に限られますので、まず収入及び支出を以下のように区分します。

 1)  収入

 ・社会保険診療報酬に係る収入
 ・自由診療報酬に係る収入
 ・その他の収入

 2)  支出

 ・診療に係る費用
 ・診療以外に係る費用

 収入に関しては、社会保険診療に係るものとその他の収入に区分することは容易ですが、支出に関しては医薬品などについて社会保険診療に係る費用と、自由診療に係る費用を区分することは通常困難です。

 そこで、支出に関しては診療に係る費用と診療以外の費用に区分した上で、診療に係る費用部分を、収入全体に占める社会保険診療報酬と自由診療報酬の割合等の合理的な按分基準によって按分します。自由診療については、按分して算出した費用の額に診療科に応じた調整率を乗じた金額が実額経費となります。


(2) 概算経費の計算

 概算経費の計算は速算表がありますので、それをもとに計算します。

 概算経費の速算表
社会保険診療報酬の額(A) 算  式
2,500万円以下 A×72%
2,500万円超  3,000万円以下 A×70%+  500千円
3,000万円超  4,000万円以下 A×62%+2,900千円
4,000万円超  5,000万円以下 A×57%+4,900千円


4.源泉徴収 4-4

(1) 社会保険診療報酬に係る源泉徴収

 個人の場合、社会保険診療報酬支払基金から支払われる金額については所得税が源泉徴収されます。国民健康保険診療報酬については源泉徴収されません。なお、社会保険診療報酬について源泉徴収される金額は以下の通りです。

  源泉徴収税額=(その月分の社会保険診療報酬の金額−20万円)×10%


(2) 給与等に係る源泉徴収

 [1]  原則

 理事・従業員等に対して給与等を支払った場合並びに税理士・公認会計士等に対する報酬及び個人に対する外注費等を支払った場合には、その金額に対して所得税を源泉徴収します。源泉徴収した事業主は、その徴収した月の翌月10日までに国に納付します。

 なお源泉徴収の対象となる給与等は実際に支払った金額となりますので、未払経理した場合には源泉の対象とはなりません。

 [2]  源泉徴収を要しない場合

 常時2人未満の家事使用人等に対してのみ給与等の支払いをする者は[1]の規定にかかわらず源泉徴収をする必要がありません。この場合には源泉徴収されなかった使用人等については確定申告により所得税を納付します。

 [3]  納期の特例

 常時勤務する従業員等が10人未満である場合には、源泉徴収税額の納期の特例を受けることができます。納期の特例を受けた場合の源泉徴収税額の納期限は以下の通りです。

   1月から 6月分の徴収税額---その年7月10日

   7月から12月分の徴収税額---翌年1月10日(税務署長の承認を受けた場合には1月20日)

   なお、実際に納期の特例の適用が開始されるのは、申請書を提出した日の属する月の翌月分からの徴収税額からです。従って、例えば4月に承認を受けた場合には4月分の徴収税額については5月10日までに納付し、5月分及び6月分については7月10日に納付することになります。

 また納期の特例の対象となるのは、給与等及び税理士・公認会計士・社会保険労務士等に対する報酬となっています。その他の個人に対する報酬・料金等に関しては原則通りに支払った月の翌月10日が納期限となります。

 [4]  派遣医師に対する給与に係る源泉徴収

 派遣医師に対する給与については、手取り契約にしておき派遣を受けた都度給与の支払いを行う場合がありますが、この場合の源泉徴収について日額表の源泉徴収表で計算してしまうと源泉の金額が多くなります。これについて国税庁からの見解が出ており、以下のいずれかの方法で行うことにより源泉徴収の月額表により計算することができます。

   月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとにまたは派遣を受ける都度分割して支払うこととする方法

   月中に支払うべき給与をまとめて月ごとに支払うこととする方法

   日額表の乙欄で源泉徴収をする場合、源泉の負担が大きいため、上記のいずれかの方法により月額表で源泉徴収し負担を軽減するとよいでしょう。

 

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