目次 1


 実例と解説
  印紙税の課税物件(課税対象となる文書)

 1 課税文書の意義

 印紙税法では、課税物件、課税標準及び税率、並びに一般的な課税物件が一つにまとめられて、別表第一に掲げられています。

 この課税物件表の課税物件の欄に掲げられている文書のうち、法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書を「課税文書」といいます。

 整理すると、次のように説明できます。

(1)文  書  → 課税対象となる文書 …………  課税文書
  …………  非課税文書
   → 課税対象とならない文書 ……  不課税文書

 課税文書に該当する場合の、この「文書」とはどのようなものをいうのでしょうか。この文書の定義は印紙税法には規定されていません。「課税文書の用紙」という文言が使われている条文はありますが、「文書」の定義はどこにも規定されていません。しかし、一般的には次のように考えられています。

 課税文書の「文書」とは、「紙」に限定されません。一定の権利や物の給付関係などを記載した「有体物」であるといわれています。
 フロッピーディスクなどの電磁的記録を保存するような磁気媒体等については、表示が表面に出ず媒体内で保存されるだけなので、権利関係等が表面的に明らかにされないことから、これは文書には該当しません。しかし、フロッピーディスクの表面に文字が印字されているのであれば、文書に該当することもあると考えられます。

 例えば、ベニヤ板に契約内容を記載して署名押印等をすれば、このベニヤ板は契約書に該当し、課税事項の記載があれば課税文書に該当します。

 ただ、この場合においては印紙をどのように貼ればよいのかという疑問が生じますが、印紙税の納付方法は書式表示などの特例納付などもあり、文書の形態や行使方法などによって選択をすればよいと考えます。

 ベニヤ板以外に、例えば布切れでも文書に該当しますので、布切れに一定の記載を行うことにより、課税文書となることもあり得ることになります。

ポイント
 ベニヤ板でも布切れも印紙税法では文書に該当することになり、もしそれが契約書等に該当し、課税事項の記載があれば課税文書に該当します。つまり、文書とは紙に限らないということになります。


ア 課税文書

 課税文書は、印紙税法別表第一の課税物件の欄に掲げられており、この課税物件欄は、物件名と定義欄に区分されています。

 物件名は、課税文書に該当するとされる文書の課税事項を定めています。「請負」「不動産の譲渡」などがそれであり、それら課税事項を証明する目的で作成される文書が課税文書に該当します。

 ここで、この物件欄では、例えば第2号文書で「請負に関する契約書」が掲げられているのですが、「〜に関する契約書」とする理由は、仮に「請負契約書」とすれば、請負契約書という表題の文書のみが課税とされ、表題が「合意書」や「受取書」であっても、内容が「請負契約」を証明する目的であるような場合には、「請負契約書」としての課税文書として、印紙税の納付を求められなくなり、実質上の権衡が保てない、ということによるものです。

 定義欄は、課税物件の定義やそれに含まれないもの、含まれるものなどを規定しています。

根拠法令等
*法第2条
 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
*基通第2条(課税文書の意義)
 法に規定する「課税文書」とは、課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下、「課税事項」という。)が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち、法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないこととされる文書以外の文書をいう。

 印紙税法課税物件表別表第一は、「課税物件表」と「課税物件表の適用に関する通則」により構成されています。この通則の1から3及び5において、課税物件についての通則、つまり、課税物件表をどのように適用するのか、課否判定をしようとする文書が課税物件表に掲げられているどの号の文書に該当するのか、その所属に関する一定の基準が定められ、特に複数の号に該当するような場合における所属の決定方法などが詳細に定められています。

 また、通則の5は、課税物件表で用いられている契約書の定義が共通的に定められています。つまり、印紙税法で規定されている契約書とはどのようなものをいうのか、ということが明確に定められています。

ポイント
課税文書の要件
(1) 課税事項の記載があること
(2) 当事者間で課税事項を証明する目的で作成された文書であること
(3) 非課税文書に該当しないこと


イ 非課税文書

 上記課税文書のうち、印紙税を課さないものとして印紙税法第5条に規定されている文書をいいます。

 これは、次のように整理されます。

● 課税物件の一部を非課税とするもの
 ・ 法に定める特定の要件(金額を除きます。)を満たすもの
  (例)  第6号文書(定款)で、「株式会社又は相互会社の定款のうち、公証人法第62条の3第3項(定款の認証手続)の規定により公証人の保存するもの以外のもの」が非課税とされています。
  (例)  第17号文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)で、「営業に関しない受取書」が非課税とされています。
  (例)  第18号文書(預貯金通帳)で「信用金庫その他政令で定める金融機関の作成する預貯金通帳」が非課税とされています。
 ・ 法に定める特定の金額(契約金額、券面金額、その他当該文書により証されるべき事項に係る記載金額)が所定の金額に満たないもの
  (例)  第2号文書(請負に関する契約書)で「契約金額の記載のある契約書のうち、当該契約金額が1万円未満のもの」が非課税とされています。
  (例)  第17号文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)で「記載された受取金額が3万円未満の受取書」が非課税とされています。
 ・ 法に定める特定の要件を満たし、かつ、特定の金額が所定の金額に満たないもの
  (例)  第8号文書(預貯金証書)で「信用金庫その他政令で定める金融機関の作成する預貯金証書で、記載された預入額が1万円未満のもの」が非課税とされています。
● 特定の法人の作成する文書を非課税とするもの
 ・ 国や地方公共団体(地方自治法に規定する地方公共団体をいいます。)が作成する文書はすべて非課税とされています。
 なお、この場合、国や地方公共団体が作成した文書には、当該国や地方公共団体の職員が職務上作成した文書を含むこととされています。
 ・ 法別表第二に掲げる法人が作成する文書は、その法人の持つ公共性に照らし、作成するすべての文書が非課税とされています。
  (例) 財務大臣が指定した独立行政法人が作成する文書
(独立行政法人の項に基づき、印紙税を課さない法人 平成13年財務省告示第56号)
  (例) 日本政策金融公庫が作成する文書
  (例) 信用保証協会が作成する文書
● 特定の者が作成する特定の文書を非課税とするもの
 ・ 法律で定める特定の文書(法別表第三の上欄に掲げる文書)で、これに対応する特定の者(法別表第三の下欄に掲げる者)が作成した課税文書に対して、課税しないこととされています。
 この場合、法別表第三の上下の各欄の要件を共に満たす必要があり、特定の者には、委任を受けた者は含まないとされています。
  (例) 「日本銀行その他法令の規定に基づき国庫金又は地方公共団体の公金の取扱いをする者」が作成する「国庫金又は地方公共団体の公金の取扱いに関する文書」などが非課税とされており、いわゆる税金等の収納取扱いを行う金融機関が、国等との間において交わす「収納取扱いに関する契約書」などがこれに当たります。

 また、印紙税法以外の他の法律によって印紙税を課さないこととされている文書があります。これは、その文書を課税物件表に当てはめた場合に、もともと掲げられていない、つまり課税対象外となる文書(不課税文書)や課税文書、非課税文書のいずれに該当するとしても、そもそもこれらの法律によって印紙税を課さないとされている文書をいいます。つまり、課否判定をする必要もなく、当初から課税を予定していない文書であるといえます。その理由は、おおよそ次のようなことによるものであるといわれています。

 公共性を持つものであること
 零細なものであること
 課税すれば円滑な経済取引を著しく阻害するものであること
 政策的配慮によるものであること

 これはおおよそ次のように整理されます。

◎特別法の法律により印紙税を課さないこととされている文書
 (例)健康保険法第195条(印紙税の非課税)
     「健康保険に関する書類には、印紙税を課さない」
 (例)農業災害補償法第11条(印紙税の非課税)
     「農業災害補償に関する書類には、印紙税を課さない」
 (例)労働者災害補償保険法第44条(印紙税の非課税)
     「労働者災害補償保険に関する書類には、印紙税を課さない」

◎条約により印紙税を課さないこととされている文書
 (例) アジア開発銀行を設立する協定第56条3項(課税の免除)(昭和41年条約第4号)
    「銀行が発行する債務証書その他の証書(その配当又は利子を含む)に対しては、保有者のいかんを問わず、次のいかなる種類の租税も課してはならない」

法の委任による政令もしくは省令で印紙税を課さないこととされている文書
 (例) 沖縄の復帰に伴う建設省関係法令の適用の特別措置等に関する政令第53条5項(土地区画整理に関する経過措置)
    「法第147条第1項の土地区画整理及び土地区画整理を施行している土地区画整理組合については、…(中略)…とみなして、次に掲げる法律(これに基づく命令を含む。)の規定を適用する」
八 印紙税法(昭和42年法律第23号)
 (例) 額面株式の株券の無効手続に伴い作成する株券に係る印紙税の非課税に関する省令(平成13年財務省令第56号)

◎租税特別措置法の規定により印紙税を課さないこととされている文書
 (例) 株式分割等に係る株券の印紙税の非課税に関する経過措置(措置法第91条の4)
 (例) 都道府県が行う高等学校の生徒に対する学資としての資金の貸付けに係る消費貸借契約書等の印紙税の非課税(措置法第91条の2)
 (例)納税準備預金通帳の印紙税の非課税(措置法第92条)

根拠法令等
*法第5条
別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、次に掲げるものには、印紙税を課さない。
 (1) 別表第一の非課税物件の欄に掲げる文書
 (2)国、地方公共団体又は別表第二に掲げる者が作成した文書
 (3)別表第三の上欄に掲げる文書で、同表の下欄に掲げる者が作成したもの
*基通第2条(課税文書の意義)
 法に規定する「課税文書」とは、課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下、「課税事項」という。)が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち、法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないこととされる文書以外の文書をいう。


ウ 不課税文書

 印紙税法別表第一の課税物件の欄に掲げる文書以外の文書をいいます。

 印紙税法は、「課税文書限定列挙主義」を採用していますので、課税対象となる文書のみが課税物件表として法律に規定されています。つまり、課税物件表に掲げられていない文書は、すべて不課税文書ということになります。


(2) 課税文書に該当するかどうかの判断

 その文書が課税文書に該当するかどうかの一定の判断基準を示したのが、印紙税法基本通達第3条です。

根拠法令等
*基通第3条(課税文書に該当するかどうかの判断)
1. 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。
2. 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。

 まず、この通達を読まれて、どれくらいの方が即座に理解できたでしょうか。印紙税の課否判定は「意外と簡単にできる」と思われている方が多いと思いますが、この通達が課否判定の基本となっていることをここで認識してください。この通達が課否判定の判断基準として規定されているのですが、規定の内容が非常に抽象的となっています。

 そこで、この通達が意図しているところを考えてみることにします。

 ここでは、簡単な事例をあげて解説しますので、それを検討しながら、その判断基準等を理解していくことにします。


 表題が、「契約書」であっても、その契約書の条項中に、金銭の受取条項があれば、金銭又は有価証券の受取書に当たります(基通第3条の前段参照)。

 

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