目次 5-I-2


I 棚卸資産の評価

2 棚卸資産の評価方法

(1)原価法

 法人税法で認められている棚卸資産の評価方法には、原価法と低価法があります(法29丸数字2、令28丸数字1)。「原価法」は、次の6つの評価方法のうちいずれかで取得価額を算出する方法です。

[1] 個別法…………期末棚卸資産の全部について、個々の取得価額で評価する方法
 通常一の取引で大量に取得され、かつ、規格に応じて価額が定められているものには個別法を選択できません(令28丸数字3)。実務では、不動産販売業者の土地や貴金属業者の宝石類、あるいは個別原価計算を行っている製品、半製品および仕掛品などに適用されます。

[2] 先入先出法…………期末棚卸資産は期末に最も近い時点で取得した棚卸資産から順次なるものとみて計算した取得価額で評価する方法

[3] 総平均法…………期首に有していた棚卸資産の取得価額の総額と期中に取得した棚卸資産の取得価額の総額との合計額を、これらの棚卸資産の総数量で除して計算した価額を1単位あたりの取得価額とする方法
 「月別総平均法」も認められます(基通5−2−3)。

[4] 移動平均法…………受入れのつど計算する総平均法で、棚卸資産を取得するつどその時点で有する棚卸資産と新たに取得した棚卸資産との数量および取得価額に基づいて平均単価を算出し、以後同様の方法で計算を行い期末時点での平均単価を算定する方法
 「月別移動平均法」(月別総平均法と結局同じ計算)も認められます(基通5−2−3)。

[5] 最終仕入原価法…………期末に最も近い時点で取得したものの単価を1単位あたりの取得価額とする方法
 期末棚卸資産の一部だけが実際取得原価で評価され、他の部分は時価に近い価額で評価される可能性が高いため、理論上は妥当な評価方法といえません。しかし実務的簡便性のゆえに、現実には中小企業などで幅広く採用されています。

[6] 売価還元法…………種類等または差益率の同じ棚卸資産ごとに、期末における販売価額の総額に下記の原価率を乗じて計算した取得価額で評価する方法
   原価率= 期首棚卸資産の取得価額+当期仕入棚卸資産の取得価額

期末棚卸資産の販売価額+当期売上棚卸資産の販売価額
 売価還元法は、一般に百貨店やスーパーマーケットなどで採用されています。ほかに製造業を営む会社で、原価計算を行わないため半製品や仕掛品について製造工程に応じて製品売価×○%の計算で評価するやり方を採用する場合もあり、これも売価還元法として取り扱われます(基通5−2−4)。


設例1

 3月中の商品売買の状況は次のとおりです。

  3月 1日
    5日
    8日
    12日
    28日
    30日
    31日
    仕  入
    売  上
    仕  入
    売  上
    売  上
    仕  入
    実地棚卸数量
    300個 @100円
    100個 (3/1 仕入分)
    300個 @120円
    300個 (3/8 仕入分)
    100個 (3/1 仕入分)
    200個 @140円
    300個

計 算

 原価法の各評価方法で、期末棚卸高を計算すれば次のとおりです。

 [1] 個別法
 商品の受払いを個々に追跡し、期末在庫品がいつの仕入分であるか特定します。
  3/1仕入分   3/30仕入分  
  100個×100円 200個×140円 =38,000円

 [2] 先入先出法
 先に仕入れた商品が先に売れ、最近仕入れた新しい商品が在庫になっていると仮定します。
  3/30仕入分   3/8仕入分  
  200個×140円 100個×120円 =40,000円

 [3] 総平均法
 商品が平均的に売れたと仮定し、1期間を通じた総平均単価を計算します。
  3/1仕入分   3/8仕入分   3/30仕入分   3/1   3/8   3/30
  (300個×100円 300個×120円 200個×140円) ÷ (300個 300個 200個)
  総平均単価                    
  = 117.5円                    
  300個×117.5円=35,250円

 [4] 移動平均法
 商品仕入のつど、その時点での平均単価を計算します。
 ●3/8時点の平均単価
  3/1仕入分   3/8仕入分   3/1   3/8  
  (200個×100円 300個×120円) ÷ (200個 300個) =112円
 ●3/30時点の平均単価
  3/8時点分   3/30仕入分   3/8   3/30  
  (100個×112円 200個×140円) ÷ (100個 200個) =130.67円
  300個×130.67円=39,201円

 [5] 最終仕入原価法
 期末に最も近い時点での仕入単価で計算します。
      3/30  
  300個 × 140円 =42,000円


設例2

 ●期首商品棚卸高(原価)
 ●当期商品仕入高(原価)
 ●当期商品販売高(売価)
 ●期末商品棚卸高(売価)
550万円
  6,200万円
8,300万円
700万円

計 算

 売価還元法により、期末棚卸高を計算すれば次のとおりです。

 (原価率の計算)   550万円+6,200万円

700万円+8,300万円
=0.75
 (期末棚卸高の計算)   700万円×0.75=525万円


(2)低価法

 「低価法」は、原価法のうちのいずれか一つの方法で評価した価額と、期末における時価のいずれか低い価額で評価する方法です(令28丸数字1二)。

 低価法で棚卸資産を評価する際の時価は、期末日における通常の売却可能価額から、追加製造原価と販売直接経費の見積り額を控除した「正味売却価額」によることとされています(基通5−2−11)。なお、原材料等の未加工品については購入価額のほうが把握しやすいので、「再調達原価」により計算した金額を期末時価とすることが認められています。


 低価法の適用により棚卸資産の帳簿価額を切り下げた場合、翌期首においてその帳簿価額を取得価額に振り戻す処理(「洗替え低価法」)が要求されます。

 この方法では時価の反騰に応じて、前期以前に費用計上された棚卸資産原価の一部または全部を当期の収益に振り戻す結果となるため、企業会計では、時価の反騰を度外視する「切放し低価法」が保守主義の観点から妥当とされています。しかし、税務上は時価回復の事実を重視し、切放し低価法を認めていません。

 かつては、税務上も例外的に切放し低価法を認めていましたが、平成23年度の改正でこれを廃止し、洗替え低価法に一本化されました。


(3)評価方法の選択

 棚卸資産の評価方法は、事業の種類ごとに、かつ、棚卸資産の種類(商品・製品・半製品 etc.)ごとに選択します(令29丸数字1)。

 評価方法の選択の届出は、原則として法人設立の日を含む事業年度分の確定申告書の提出期限までに行わねばなりません。ただし、設立後新たに他の種類の事業を開始した場合や事業の種類を変更したときは、その開始日または変更日を含む年度分の確定申告書の提出期限が届出期限とされます(令29丸数字2)。

 なお、法人が棚卸資産につき評価方法を選択しなかった場合、または選択した方法で評価しなかった場合の法定評価方法は、「最終仕入原価法」で算出した取得価額による原価法とされています(法29丸数字1、令31丸数字1)。

 棚卸資産につき選択した評価方法を変更するときは、その変更しようとする事業年度開始の日の前日までに、「変更承認申請書」を税務署へ提出しなければなりません(令30丸数字1丸数字2)。変更承認申請に対して承認または却下の通知がなされますが(令30丸数字4)、現によっている評価方法を採用してから相当期間(おおむね3年)を経過していないときは、合併など特別な理由がある場合を除いて申請は却下されます(令30丸数字3、基通5−2−13)。

 3年を経過していても、変更することに合理的な理由がないと認められれば変更は認められません。

 なお、変更承認申請書の提出があった場合に、その新たな方法を採用する事業年度終了の日までに承認または却下の処分がなければ、その日に承認があったものとみなされます(令30丸数字5)。

 

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