証券取引法の規制対象となる会社(主として上場企業)は、平成12年3月期決算から“税効果会計”を適用すべきこととされました(財務諸表規則8の11)。
注 非上場の会社でも適用は可能ですが強制はされません。
税効果会計は、企業会計の経理処理ないし財務諸表の表示方法の一手法で、あらましは次のとおりです。
たとえば、決算利益(税引前当期利益)が1,000万円の会社が2社あり、両社の損益計算書が次のようであったとします。
|
|
|
A 社 |
|
B 社 |
|
|
|
|
|
|
|
税引前当期利益 |
|
1,000万円 |
|
1,000万円 |
|
法 人 税 等 |
|
400万円 |
|
600万円 |
|
当期利益 |
|
600万円 |
|
400万円 |
法人税等の実効税率は、現在約『40%』です。そこで決算利益に対する税負担の割合を考えれば、A社の姿が自然です。ところが現実には、B社のように税額と手取額が逆転している場合もあります。逆転の理由は通常、本章で説明してきた決算利益と申告所得の食い違いにあります。B社に関して、たとえばこういうケースが考えられます。
|
決算利益 |
|
貸倒損失 |
|
課税所得 |
|
1,000万円 |
+ |
500万円 |
= |
1,500万円 |
|
|
|
実効税率 |
|
|
|
1,500万円 |
× |
40% |
= |
600万円 |
不良債権500万円を貸倒損失として処理しましたが、税務上は時期尚早で損金不算入の扱いを受けました。そこでその分、課税所得が膨らんで税負担が増加したということです。この場合、損益計算書で税金の負担割合を本来の実効税率どおり(40%)とするためには、次のような仕訳をすればよく、これが税効果会計の処理です。
(借) |
繰延税金資産 |
200万円 |
(貸) |
法人税等調整額 |
200万円 |
|
|
貸倒損失 |
|
(注) |
500万円 |
×40%=200万円 |
|
|
|
損益計算書 |
|
|
|
|
|
|
|
|
税引前当期利益 |
|
|
|
1,000万円 |
|
法 人 税 等 |
|
600万円 |
|
|
|
法人税等調整額 |
|
△ 200万円 |
|
400万円 |
|
当期利益 |
|
|
|
600万円 |
損金不算入額(500万円)に対する税金相当額(200万円)を損益計算書から除去し、それを貸借対照表に資産として計上するという処理です。なぜ資産計上かといえば、この200万円は将来回収できる可能性があるからです。つまり翌期以降、貸倒損失が税務上の要件を満たせば損金に算入されその年度の納税額は減少します。
たとえば翌期に損金算入が認められれば、所得計算は次のようになります(決算利益は1,000万円で、他に食い違い項目はないものとします)。
|
決算利益 |
|
貸倒損失認容 |
|
課税所得 |
|
1,000万円 |
− |
500万円 |
= |
500万円 |
|
500万円×40%=200万円 |
この場合、損益計算書は次のとおりです。
|
損益計算書 |
|
|
|
|
|
税引前当期利益 |
|
1,000万円 |
|
法 人 税 等 |
|
200万円 |
|
当期利益 |
|
800万円 |
そうすると、ここでまた税負担割合がおかしくなります。そこで、この年度は税効果会計を次のように適用します。
(借) |
法人税等調整額 |
200万円 |
(貸) |
繰延税金資産 |
200万円 |
|
|
貸倒損失認容額 |
|
(注) |
500万円 |
×40%=200万円 |
|
|
損益計算書 |
|
|
|
|
|
|
|
税引前当期利益 |
|
|
|
1,000万円 |
|
法 人 税 等 |
|
200万円 |
|
|
|
法人税等調整額 |
|
200万円 |
|
400万円 |
|
当期利益 |
|
|
|
600万円 |
以上の処理を行うことで、前期および当期とも、損益計算書上の税金の負担割合が実効税率の40%に直ります。このように、適正な期間損益計算の観点から、法人税等の金額を税引前当期利益の金額に合理的に対応させるための会計、それが税効果会計です。 |