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2.資本取引と損益取引

(1) 資本取引の意義

 上記の条文では、益金と損金を“資本等取引以外の取引に係る収益(費用)の額”と規定しています。ここで資本等取引とは、資本金および資本積立金の金額の増加または減少を生ずる取引と、利益または剰余金の分配(中間配当を含みます)のことです(法22(5))。


 「資本積立金」は、貸借対照表の資本の部で、法定準備金のうち「資本準備金」として表示されている項目がおおむね該当します。正確には、法人税法第2条第17号で列挙される項目をいいますが、主要なものは次の3つです。

(1) 株式払込剰余金
 株式の発行価額のうち法定資本(資本金)に組み入れない金額をいいます。たとえば、1株800円で10万株の時価発行増資を行い、そのうち500円を資本金に組み入れるとすれば、次の仕訳をします。

 (借) 現金預金    8,000万円   (貸) 資本金
株式払込剰余金
  5,000万円
3,000万円

(2) 減資差益金
 減資手続による法定資本の減少金額が、株主に対する払戻金等を超過する場合の超過額をいいます。たとえば、資本金2,000万円(株式額面500円)の会社で1−2減資を行い、1株につき400円を株主に払い戻したとすれば、仕訳は次のとおりです。

 (借) 資本金   1,000万円   (貸) 現金預金
減資差益
    800万円
   200万円

(3) 合併差益金
 被合併法人から承継した純資産の受入価額が、被合併法人の株主に交付した株式等の金額を超過する場合の超過額をいいます。
 たとえば、1,200万円の純資産を有する会社を吸収合併し、同社の株主に株式を2万株(額面500円)交付したとすれば、次のように仕訳します。

 (借) 純資産   1,200万円   (貸) 資本金
合併差益
  1,000万円
200万円


(2) 資本取引と損益取引の区分

 資本積立金はいずれも、「資本取引」から生ずるもので非課税の項目です。資本取引とは、株主から払い込まれた投下資本自体の増減に関する取引をいい、これに対し資本の利用によって生ずる取引を「損益取引」といって、両者は明確に区別されなければなりません。


 企業活動は、まず資本の払込みを受けることからスタートし、これを元手として営業活動を行い、毎期利益を獲得していくことになります。当初の投下資本自体がその後に増減するケースとして増資、減資、合併などがあり、これらの取引から生ずる上記の3項目は資本積立金に該当します。

 一方、投下資本を元手として利益追及のために行う購買、販売、財務などの取引は損益取引です。企業会計上、資本自体の増減から利益は生じません。それは購買や販売のような、財貨または用役の増減によってのみ実現するとされています。

 税務上もこの考え方は尊重されます。すなわち、法人税は利益(正確には所得)に対して課税するものであり、資本課税つまり元手に対する課税はしません。損益取引から生ずる利益(所得)で、課税を受けた後に内部留保した金額を「利益積立金」といい、同じく純資産(貸借対照表の資本の部)の項目ですが、法人税の課税上、資本積立金と利益積立金はその性格を異にしています。

 

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