目次 1-I-2


2.申告調整と決算調整

 企業会計の「損益計算」は“収益−費用=利益”の算式で行いますが、法人税の課税標準(課税対象)たる所得金額は、必ずしもこの利益金額とイコールではありません。「所得計算」の算式は“益金−損金=所得”です。

 両計算における収益と益金、費用と損金はほぼ同じ概念ですが、一部食い違っているものがあります。法人税法は、確定決算で求まる当期利益がそのまま所得金額になるような決算を要求しているわけではなく、食い違い項目があればその調整を申告書の「別表4」で行うことになります。

 ただし、あらゆる項目に関して申告書で調整することが認められるのではありません。確定決算で計上した金額を、申告書で増減できない項目もあります。

 たとえば、固定資産の減価償却費については、会社が償却費として損金経理(費用処理)した金額のうち、法定の償却限度額までの金額が損金として認められます(法31)。つまり、減価償却費を損金に算入するためには、税務上の限度額以下の金額であることと、それを損益計算書に費用として計上(決算調整)していることが条件です。企業会計に計上せず、申告書上の調整(減算)のみで償却費を損金に算入することはできません。

 主な「決算調整事項」は次のとおりです。

 (1) 減価償却資産および繰延資産の償却費の損金算入
 (2) 少額の減価償却資産および少額の繰延資産の損金算入
 (3) 引当金繰入額および準備金積立額の損金算入
 (4) 使用人兼務役員の使用人分賞与の損金算入
 (5) 役員退職金の損金算入
 (6) 圧縮記帳に関する損金算入
 (7) 棚卸資産に対する切放し低価法の適用 etc.

 上記の決算調整事項に対して、決算書に計上されていなくても申告書上の調整で片付くのが「申告調整事項」です。この調整事項には、法人の意思にかかわらず必ず調整しなければならないもの(必須調整事項)と、調整するかしないか法人の自由であるもの(任意調整事項)の2種類があります。主だった項目は次のとおりです。

 (1) 必須申告調整事項

 (1) 資産の評価益の益金不算入
 (2) 法人税・罰科金などの損金不算入
 (3) 法人税額から控除する所得税額や外国税額の損金不算入
 (4) 還付金などの益金不算入
 (5) 前期分および中間申告分事業税の損金算入
 (6) 償却費の限度超過額の損金不算入
 (7) 資本的支出の損金不算入
 (8) 引当金の繰入限度超過額および準備金の積立限度超過額の損金不算入
 (9) 引当金および準備金の取崩額の益金算入
 (10) 役員賞与の損金不算入
 (11) 過大役員報酬および過大役員退職金の損金不算入
 (12) 不正計算で支給する役員報酬の損金不算入
 (13) 役員親族の使用人への過大給与の損金不算入
 (14) 交際費の損金不算入
 (15) 寄付金の限度超過額の損金不算入
 (16) 青色申告法人の繰越欠損金の損金算入 etc.

 (2) 任意申告調整事項

  (1) 受取配当金の益金不算入
(2) 所得税額および外国税額の法人税額からの控除(損金算入を選択することも可)
(3) 特別償却不足額の繰越し
(4) 収用などによる資産譲渡に対する特別控除 etc.

 必須調整事項については、もし法人がその申告調整をしなければ税務署によって更正されます。一方、任意調整事項は確定申告書に記載があれば、その調整が認められます。したがって、法人が申告調整をしなければ更正は行われず、通常は節税面で権利放棄の状態になってしまいます。

 

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