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7 租税条約における使用地主義と債務者主義

Question


 租税条約では使用料がどこの国で生じたかを決めるにあたり使用地主義と債務者主義という決め方があるそうですが、それはどのようなことなのか教えてください。


Answer


 国内法では、国内源泉所得とされる使用料について、その支払者の国内業務に係るものを国内源泉所得としており、「使用地主義」により工業所有権等の使用地国を所得源泉地としています。

 これに対して、工業所有権等の使用地にかかわらず、使用料の支払者(債務者)の居住地国を所得源泉地とする定め方を「債務者主義」といいます。


1 国内法における原則

 国内法で規定する国内業務に係るものとは、使用料等のうち国内における業務の用に供されている部分に対応するものをいいます。

 したがって、国内で使用される工業所有権等に係るものに限り国内源泉所得とされること(使用地主義)となります(門野久雄著『非居住者・外国法人 源泉徴収の実務Q&A』第3章問53参照)。


2 租税条約と所得源泉地に関する規定

 我が国が締結した租税条約の多くは、使用料の受益者の居住地国において課税することを前提としつつ、使用料の生じた(所得源泉地)国においても課税できることとされています。

 そのため、使用料の所得源泉地に関する規定(source rule)がどのように定められているかが重要なポイントとなりますが、国内法では使用地主義となっている一方、我が国が締結した多くの租税条約では、債務者の居住(所在)地国を所得源泉地とする債務者主義が採られています。

 このように所得源泉地がバッティングする場合には、租税条約の規定よりも国内法の規定の方が有利なときは国内法の適用を選択することができる(プリザベーション・クローズ=preservation clause)という、条約と国内法の優先適用に関する原則があります。しかし国内法においては、国内源泉所得として規定する2号所得から12号所得について、租税条約により国内源泉所得とされたものをもってこれに対応する上記各号に掲げる国内源泉所得とみなすこと(所得源泉地置換え規定)と規定しています。ここにおいて、我が国では所得源泉地規定にプリザベーション・クローズの適用がないことが明確にされているものと、一般的には解されています。

 したがって、我が国の居住者が債務者主義を採用している国の居住者に使用料を支払う場合には、その工業所有権等がどこで使用されるかにかかわらず、我が国で課税されることとなります。

 ここでいう債務者とは、債務を負っている締結国の居住者、すなわち課税を受けるべきものとされる者を指すことから、例えば、内国法人の国外にある駐在員事務所が工業所有権等を使用しているような場合でも、債務者は、その法人(居住者)となります。

 租税条約で使用料の源泉地を規定していない国や租税条約を締結していない国の居住者への支払については、国内法が適用されることから、使用地主義により課税されることとなります。

 なお、租税条約で使用料の源泉地を規定していない国のうち、近年に締結(改正)したアメリカ、イギリス、フランスなどとの国においては、条約の特典条項によりその課税を免除されることとなっています。

 租税条約における所得源泉地に関する規定を要約すると、次に掲げる表のとおりです。

区  分 条約締結国
債務者主義を採っているもの イタリア、カナダ、韓国、タイ、中国、ドイツ、香港など 下記2〜4以外の国等
使用地主義を採っているもの フィジー
特に規定を置いていないもの
(国内法により使用地主義)
アイルランド、オーストラリア、スリランカ、ニュージーランド
特に規定を置いていないが、条約の特典条項により免税とされているもの アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スイス
 *  フィジーは日英租税条約の原条約(1963年発行条約第20号)により適用される地域(当時=現在は国)となっています。


参考 所法161七〈国内源泉所得〉、同162〈租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得〉、法法138七〈国内源泉所得〉、同139〈租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得〉

 

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