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第1章 非居住者・外国法人の所得に対する課税のあらまし

1 非居住者・外国法人に対する課税制度

Question


 非居住者や外国法人であっても我が国の所得税の納税義務があるそうですが、非居住者等に対する課税制度の概要について教えてください。


Answer


 非居住者又は外国法人(「非居住者等」といいます)は原則として国内源泉所得に限定して納税義務を負うこととされており、その所得に対する課税制度は、居住者又は内国法人とは異なる取扱いとなっています。


1 非居住者等に対する課税制度の概要

 所得税法における非居住者等に対する課税制度の概要は、以下に記載のとおりです。

★課税制度と国際的二重課税の問題

 非居住者等に対する課税制度は、通常、国際取引に対する課税として行われますが、国内取引と同様に課税する場合には、全く租税を課さないタックス・ヘイブンにある相手先との取引を除き、どうしても国際的な二重課税が発生するという問題が生じます。

 国境を越えて行われる国際取引について、各国がその課税権を等しく行使する場合には、居住地国による全世界所得課税と所得源泉地国による国内源泉所得課税が競合・衝突する結果となり、国際的二重課税が生じることとなります。

 このような場合には国際取引の障害となることから、二重課税を排除して適正な課税を図ることが必要な課税の原則であるといわれています。

 このような考え方から、通常、自国の居住者又は内国法人に対して課税する場合と、それ以外の者(原則として非居住者等)に課税する場合とに区分して課税権を行使するとともに、二重課税が発生した場合には、これを排除する別段の規定が設けられています。

★我が国における課税制度の仕組み

 [納税義務者の区分と課税所得の範囲]

 納税義務者について、国内法である所得税法(又は法人税法)では、個人は「居住者」と「非居住者」に、法人は「内国法人」と「外国法人」に区分して課税の範囲等を規定しています。

 そして、非居住者等については、その課税の範囲を「国内源泉所得」に限定しています。この課税方式は、「源泉地国課税」と称されています。

 したがって、取引により対価の支払が発生する場合には、まずその支払先が非居住者等に当たるかどうかを確認し、該当するのであれば、その対価が国内源泉所得に当たるかどうかを判断する必要があります。

 [租税条約優先の原則]

 国内法とは別に、我が国では二重課税を回避することを主目的として多くの国と租税条約が締結されています。

 国内法に対する租税条約の位置付けをみますと、憲法98条2項、所得税法162条及び法人税法139条から、租税条約が締結されていて、条文では国内法に規定する内容と相違するような取扱いが定められている場合は、租税条約に基づく取扱いが国内法に優先して適用されることとなります。

 したがって、取引先が非居住者等に該当する場合は、その取引先の居住地・所在地国と我が国との間に租税条約が締結されているかどうかを確認し、締結されているのであれば、国内法の規定と異なる定めがないかどうか、条文の内容を検討する必要があります。

 [国内法上の二重課税の排除措置]

 我が国と相手国との間で生じた二重課税を排除する措置としては、所得税法又は法人税法で、国外源泉所得について課された租税のうち、一定のものを我が国の租税から控除する「外国税額控除制度」(このほかに、「外国子会社からの受取配当益金不算入制度」)が設けられています。


2 納税義務者の区分とその定義及び課税所得の範囲

 所得税法では納税義務者を以下の表のとおりに区分し、それぞれの課税所得の範囲を以下のとおりに定めています。

納税義務者の区分及びその定義
納税義務者の区分 定  義



非永住者以
外の居住者
国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人のうち、非永住者以外の者
非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
非居住者 居住者以外の個人(国内に住所も1年以上の居所も有しない者)

内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人
外国法人 内国法人以外の法人(国内に本店も主たる事務所も有しない法人)
人格のない
社団等
法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの

課税所得の範囲
納税義務者の区分 課税対象所得 課税方法
非永住者以
外の居住者
国の内外で生じたすべての所得 申告納税又は
源泉徴収
非永住者 国内源泉所得及びこれ以外の所得で国内において支払われ、又は国外から送金された所得
 所得税の源泉徴収については、非永住者も一般の居住者と同様の取扱いとなります。
申告納税又は
源泉徴収
非居住者 国内源泉所得
 国内に恒久的施設を有しない者は、非課税とされるものがあります。
申告納税又は
源泉徴収
内国法人 国内において支払われる利子等、配当等、定期積金の給付補てん金、利息、利益、差益、匿名組合契約等に基づく利益の分配及び賞金 源泉徴収
外国法人 国内源泉所得のうち特定のもの 源泉徴収
人格のない
社団等
内国法人又は外国法人に同じ 源泉徴収
*1  非居住者等については、国内に恒久的施設を有する場合には、居住者と同様に(一定の所得は源泉徴収のうえ)申告納税方式を原則としています。
 その他の場合には、原則として源泉徴収のみで課税関係が完結する源泉分離課税方式が基本となっています。
 人格のない社団等は、所得税の課税に関し、法人とみなされますので、内国法人又は外国法人のいずれかに含まれます。


参考 所法2丸数字1三〈居住者〉、同2丸数字1五〈非居住者〉、所基通2−1〈住所の意義〉、民法22〈住所〉、同23〈居所〉

 

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