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3 具体的な取得費加算の改正の影響 |
ここでは簡略な計算例を用いて改正前・後の税負担を比較する。 (1)措置法39条改正前・改正後の比較計算例
(1)改正前 相続税額5,000万円×(土地等計2億円)/2.5億円 =4,000万円(これが取得費加算額となる) 概算取得費 210万円 +取得費加算 4,000万円 取得費合計 4,210万円 >4,200万円(売却価額) →したがって譲渡所得ゼロ=譲渡所得課税なし (2)改正後 相続税額5,000万円 ×(土地C評価4,000万円)/2.5億円 =800万円(これが改正後の取得費加算額となる) 概算取得費 210万円 +取得費加算 800万円 取得費合計 1,010万円 →売却価額4,200万円−1,010万円=3,190万円 ∴譲渡所得税額:3,190万円×20%=638万円 (3)手取額の比較 改正前:4,200万円−譲渡所得税 0円=4,200万円 改正後:4,200万円−譲渡所得税638万円=3,562万円 (手取差額) 638万円 上記のとおり、改正前と改正後では相続した土地を売却した場合の手取額に大きな差異が発生する。上記設例では評価額4,000万円の土地を例にとったが、より高額な物件であれば手取額はさらに多額の差異が生じる。したがって、土地の売却が相続税の納税目的であった場合には、この改正により譲渡所得税が増えるため手取額が大幅に減少することについて、税理士は専門家責任の見地より納税者にその事情をよく説明しておくことが求められるであろう。 そう考えると、「土地資産家」と呼ばれる富裕層にとっては、この取得費加算の改正は、実は相続税基礎控除の増税よりも、はるかに大きく税負担を増加させる可能性があり、相続対策の実務上多くの問題点を含んでいるといえよう。 このような事情から、取得費加算の改正により、「物納」が再び注目されるのではないかという見方が浮上してくるのである。 (2)再び物納が注目される理由
しかし、物納の場合には、相続税評価額で収納されるうえに譲渡所得税の負担がないので、相続税の納税方法としては有利になるといえる。このため、郊外立地や地方都市など、評価額を大きく上回っての売却が期待できない土地資産家にとっては、今回の取得費加算の改正により、あらためて相続税の物納制度が注目されるのではないかという声が上がっているのである。 (3)求められる「物納戦略」 ただし、物納申請をする前提として「金銭納付を困難とする理由」の的確な説明が求められることや、測量・境界確定等の条件整備や必要書類の提出にも迅速・正確な対応が必要となる。 その点、「生前対策」における適切な資産管理及び条件整備と、早めの納税対策立案が欠かせない。それらを総合した「物納戦略」があってこそ、はじめて物納が可能となるといっても過言ではない。このように、取得費加算の改正によって改めて「納税対策の重要性」が注目されることは、ほぼ間違いなく、そこに物納戦略を組み込むことが今後の大きな課題となるであろう。そのような税制の動向を反映して出来上がったのが(株)清文社刊の『成功する物納―正しい知識で成功に導く相続増税後の納税戦略』である。 さらにいえば、「物納」を意識した、あるいは「将来の物納を視野に入れた」資産管理や資産の組換えを行うことは「優良な資産」の形成につながる。なぜならば、物納申請で国に収納してもらうためには、いわば「完全商品」ともいえる程度にその不動産を条件整備しておかなければいけないからである。不動産を多数所有していると、なかには「不良資産」と呼ばざるを得ないものも少なくない。しかし、物納を意識するのなら、そのような不良資産を的確に条件整備することで優良資産化する、あるいは資産の組換えを行って不良資産を切り離すことなどが必要となる。 そうなれば、その資産家の保有する資産は、金額(評価額)ベースで「いくらの財産があるか」ではなく、本当の意味で「価値の高い優良資産」となる。 |