HOME コラム一覧 第21回 「中小企業のM&Aとは」

第21回 「中小企業のM&Aとは」

post_visual

1.中小企業のM&A事情

 中小企業経営者の高齢化が進む中で、事業承継は近年切実な問題となっています。2025年に70才以上になる中小企業及び小規模事業者経営者はで約250万人います。そのうち 約半数を超える約125万人以上が後継者未定となると見込まれています。それらの中小企業等は、廃業又は事業承継として、親族に、あるいは従業員に、もしくは外部の第三者に引き継ぐといった事業承継をするか、または「廃業」に追い込まれることとなります。ただ、廃業となると、日本の中小企業の従業者数は全従業者の約70%にあたり、これらの従業員の雇用が失われたり、サプライチェーンの引受け手を失い、製品製造やサービス提供に大きな支障が生じるなど、地域経済への打撃を与えうる事態となります。その意味で事業承継のしくみは重要であり、とりわけ外部の第三者への事業承継であるM&Aは、譲渡側の企業、譲受側の企業の何れにとってもWINWINとなりうるしくみと言えます。近年、公的機関である事業引継ぎ支援センターが各都道府県に設置され、中小企業を対象としたM&Aの仲介等を務める民間の M&A を支援する専門家や民間事業者が増えつつあり、中小企業 M&A の環境整備が進んできています。M&A支援を行う専門家や民間事業者については、「経産省認定M&A登録支援機関」という、公的な登録制度が昨年度からスタートしました。

2.M&Aに対する知見不足

 そのような環境整備は進んでいるものの、中小企業の多くの経営者が、M&Aについての知識を持たないことから、対応が遅れ、親族や従業員への内部承継者が不在で、かつ外部への事業承継もできないことから、「廃業」を余儀なくされ、本来であれば、営業権(のれん)を含めた企業価値があり、相応の売却資金が得られるチャンスを逃す、といったケースも少なくありません。これには、既存の概念がなかなかぬぐいきれないという事情があります。たとえば、かつて「老人介護施設」が“姥捨て山”とみられ、住んでいる家を離れたくない、施設には頑なに入りたくないと頑張る方が多くいました。しかし、施設には、「介護」のプロがいて、本人や家族の過大な負担も軽減されるという点で、今では当たり前になってきています。M&Aに対する思いも似た所があります。つまり、M&Aを“乗っ取り”や、自分が汗水流して頑張って生きた会社を手放したくない、との頑なな思いがあり、前向きに捉えられないといった事情は多くみられます。しかし、「従業員の雇用が守られる。」、「売却資金が得られる」または、「たとえ債務超過(借入>資産)であっても顧客資産やブランド、技術、知的財産権、設備や施設があれば債務から開放される」ことも十分考えられます。まずは、M&Aについて一歩前に踏み出してみることに価値があります。

3.中小企業M&Aのフロー

 令和2年3月 中小企業庁が発行している「中小 M&A ガイドライン-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」に中小企業のM&Aについて詳細に掲載されています。しかし、かなり専門的な部分もあり、頭から読みこなすのは中小企業経営者にも容易ではありません。

 ここでは、そこでも紹介されている「中小企業M&Aのフロー」をわかりやすく紹介します。

(1)事業承継相談
 まずは民間のM&A支援登録機関や公的な事業引継ぎ支援センターに相談します。

(2)仲介者やFAの選定
 仲介といって、譲受側と譲渡側の間に入ってコーディネートする場合、とFA(ファイナンシャルアドバイザー)として両方にアドバイザーがつく場合があります。

(3)バリュエーション
 交渉にあたって目安となる企業価値や事業価値を決算書等から判断します。

(4)マッチング
 M&Aする価値があると判断しうる譲受候補会社の選定を行います。

(5)M&Aに向けた交渉
 バリューエ―ションに基づき、お互いの歩み寄りが期待できる価格かどうかの交渉を行います。

(6)基本合意の締結
 M&A交渉のテーブルに着けると双方が判断出来たら、守秘義務誓約を含む、基本合意書を締結します。

(7)DD(デューデリジェンス)
 資産評価や不良債権の有無、その他実態財務の状態や、事業の収益性や営業権の価値、係争の有無などを専門家が判断し、企業価値を精査し、売買金額交渉の基礎とします。

(8)事業譲渡契約締結
 売買価格が合意できたら、譲渡に向けて、整えるべき体制(売り手、買い手双方のクロージングのための約束事(クローイング条件・・出資や役員人事、現経営者のその後の係わりなど、を実行すること)をつくります。

(9)クロージング(売買金額の決済)
 クロージングのための条件が整ったら、売買金額を決済します。

4.中小企業M&A成功の秘訣

 今では、M&Aが中小企業でも当たり前に行われるようになってきました。しかし、まだまだ、自社がM&Aに踏み出すのには、決断と勇気がいるというのが実状です。公的機関である事業承継引継ぎセンターなどでは売り手、買い手の情報バンクを持っています。また、民間のM&A仲介専門業者にも情報が多数あります。ただ、公的機関はビジネスではないので、事務的になる一方、民間の仲介専門業者はビジネスとして取り組んでいる側面が強く、別な意味でシステマティックになり、思いが届かないというケースがありえます。その意味では、M&Aのキャリアを持ち、双方の言い分をきちんと聞いて仲介ないし企業価値を判断してくれる事業に精通したM&A支援登録機関をうまく利用することは有効な手段と言えます。M&Aは経営者の“思い”を受入れ、自分が育てた会社を生かして引き継いでくれるM&A先を選定してくれるM&A支援登録機関を選定することが肝要なのです。

*当社(株)Vコンサルでは、経産省認定M&A支援登録機関としてM&Aを仲介しています。お気軽にご相談下さい。

株式会社Vコンサル

執筆者情報

profile_photo

野澤 周永

株式会社Vコンサル
Vコンサル研究所代表

 東京東銀座駅5分 歌舞伎座に近い築地コンワビルの1階に本社、B1Fに中小企業経営コンサルティング研究所を併設しています。
 1F本社のコンサルティングサロン、B1F研究所のカンファレンスルームでゆったりと相談ができます。一度HP(https://www.vcon.jp)からご予約下さい。
 また、「かかりつけ経営コンサル🄬」の商標登録をしております。詳しくはHPをご覧下さい。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

建設会社の経営力強化を指導するためのマル秘ノウハウ

記事の一覧を見る

関連リンク

第1回「収益向上ノウハウ編 ~「限界利益管理」と「人件費倍率」~」

第20回 「建設会社は工事利益増加が経営改善の重要ポイント」

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2023/img/thumbnail/img_48_s.jpg
 中小企業経営者の高齢化が進む中で、事業承継は近年切実な問題となっています。2025年に70才以上になる中小企業及び小規模事業者経営者はで約250万人います。そのうち 約半数を超える約125万人以上が後継者未定となると見込まれています。それらの中小企業等は、廃業又は事業承継として、親族に、あるいは従業員に、もしくは外部の第三者に引き継ぐといった事業承継をするか、または「廃業」に追い込まれることとなります。ただ、廃業となると、日本の中小企業の従業者数は全従業者の約70%にあたり、これらの従業員の雇用が失われたり、サプライチェーンの引受け手を失い、製品製造やサービス提供に大きな支障が生じるなど、地域経済への打撃を与えうる事態となります。その意味で事業承継のしくみは重要であり、とりわけ外部の第三者への事業承継であるM&Aは、譲渡側の企業、譲受側の企業の何れにとってもWINWINとなりうるしくみと言えます。近年、公的機関である事業引継ぎ支援センターが各都道府県に設置され、中小企業を対象としたM&Aの仲介等を務める民間の M&A を支援する専門家や民間事業者が増えつつあり、中小企業 M&A の環境整備が進んできています。M&A支援を行う専門家や民間事業者については、「経産省認定M&A登録支援機関」という、公的な登録制度が昨年度からスタートしました。
2023.06.02 18:44:16