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第二部 第7回 業界メディアと良い関係を作り、記事掲載してもらうメソッドとは

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第二部 メディアとつながり、社会とつながる

 第二部では、企業がメディアとつながり、適切な情報開示をするメリットと具体的なつながり方についてお話します。現在はインターネットを通じて、企業が直接、多くの潜在顧客や投資家に情報を開示することが可能になりました。それでも、1企業のホームページやSNSを毎日のように見ている人たちは多くありません。大企業ですらそうですから、中小企業のHPを見ている人はさらに限られます。
 一方でメディアは多くの読者や視聴者を抱えており、毎日、膨大な数の人たちが見ています。メディアは1社だけではなく、企業や政治経済など多分野にわたって逐次、たくさんの情報を発信しており、読者が習慣的に見に来るからです。メディアはたくさんの読者や視聴者、もっといえば「社会」と直接つながっているわけです。メディアはそれ自体がインフルエンサーとも言えます。企業が独りよがりの情報発信で自己満足をしないためにも、メディアとつながり、情報を発信してもらったり、記者と情報交換をしたりすることは重要だといえるでしょう。ただ「そのつながり方がわからない」という経営者や広報担当の方々も多いと思います。それにはやはりコツがあります。企業として無駄な努力をしないためにも、第二部の内容について参考にしていただければと思います。

第7回 業界メディアと良い関係を作り、記事掲載してもらうメソッドとは

 朝日新聞や読売新聞、日本経済新聞は知っているけれど、業界紙は「良く知らないし、興味もない」という方は多いと思います。確かにこうした新聞は有名で多くの部数が出ていますし、取り上げられれば企業の格も上がるという利点があります。しかし、一般紙は多くの分野や業界を取り扱っているため、それぞれの業界を非常に詳しく取り上げることが難しいのが実情です。これに対して業界紙や専門誌は少数の業界に対象を絞っていますから、その分、多くの企業を詳しく取り上げています。対象業界に入っている企業はそれだけ取り上げられやすくなるということです。
 読者の方々も業界に興味がある方が多いですから、その分、記事をすみからすみまで真剣に読んでくれることが多いわけです。一般紙は「なんとなく購読しているだけで、あまり読んでいない」という読者も多いとされ、その点も業界紙や専門誌には優位性があります。一方、業界メディアには記者と営業の境界線の低さなど、注意の必要なケースもあります。上手に記者と付き合い、互いがウィンウィンの関係になれるようにしたいものです。今回は、業界メディアとの良い関係の作り方や記事掲載のしてもらい方についてお話します。

■業界紙、専門誌に掲載してもらうためのファーストステップ

 世の中には多くの業界紙、専門誌が存在します。例えば、物流業界には「物流ウィークリー」や「物流ニッポン」、介護業界なら「シルバー産業新聞」や「シルバー新報」、インフラ関連なら「日本水道新聞」、「電気新聞」など、あらゆる業界にそれぞれ複数のメディアがあります。
 全国紙に比べれば、発行部数は多くありませんが、多くは専門的な情報を掲載しているため、関連業界の企業経営者や社員、その業界に関心のある方々が読んでいます。読者は多くないものの、全国紙よりも真剣に新聞に目を通しているケースも多く、業界に関心のある人たちの認知度を上げるのにはうってつけのメディアだといえます。
 では、業界メディアに掲載してもらうために経営者や広報担当者が初めにするべきことは何でしょうか。ファーストステップは、自社を取材対象にしている業界メディアを調べることです。ここで大事なのは、自社の属する業界だけでなく、少しでも関連する業界、取引先の業界なども調べることです。例えば不動産関係の会社であれば、建設関連の業界紙や専門誌にも記事を掲載してもらえるかもしれません。自社の業界と関わりのある業界メディアを巻き込んでいけば、メディア掲載の可能性は広がっていくでしょう。
 調べる手段は「マスコミ電話帳(宣伝会議)」などメディアの連絡先がたくさん掲載されている書籍が多く出ています。インターネットが普及した今は、業界紙が一覧になっているサイトもありますので、ネット上で検索するのも一手です。

■業界紙、専門誌に掲載してもらうためのネタ作り

 次にやるべきことは業界メディア向けのネタ作りです。まずは記事を掲載してもらいたい業界紙を入手し、研究した方が良いでしょう。記者に挨拶に行ったときに新聞を1~2部もらってくるのも一つの手ですし、挨拶だけするのが難しい場合は、新聞を購入したいと代表電話の受付の方に話し、送ってもらえば良いと思います。
 新聞を読むと、どんなストレートニュースが掲載されているかがわかります。もちろん、漫然と紙面に目を通すのではなく、入手した業界紙のニュースに自社が当てはまるネタがあるかどうかを確認しましょう。
 業界紙や専門誌の場合は、業界の細かいニュースが掲載されている一方で、対象としていない業界の記事ネタは取りあげるのが難しいのが特徴です。ただし、全業界に通じる記事ネタもあります。例えば、ある企業が、全業界を対象とする、あるサービスを始めるとします。この場合はすべての業界メディアに記事を掲載してもらえる可能性があります。
 ネタ作りの具体的な内容は、基本的には一般紙と同じです。ニュースとなりやすいネタは、新しいサービスや新商品、新規投資などがあります(ネタ作りについては今後の回で詳しくお話ししたいと思います)。ただ、あくまで業界メディアが対象とする記事ネタにするようにしたいものです。
 例えば、以下は物流関連の業界紙向けの記事ネタです。

A社が物流会社向け〇〇サービスで手数料10%下げ

 A社は来月から、物流会社など向けの〇〇サービスの手数料を10%値下げする。物流業界では、インターネット通販の普及などを背景に小口配送が増加。詳細な配送ルートプランの立案など業務の効率化を必要としており、物流関係のコンサルサービスへの需要が急増している。A社はサービスの価格を引き下げることにより、二の足を踏んでいた中小の物流会社が自社のサービスを積極活用できるようにし、物流業界の顧客開拓を進める。

 こちらでは、文中で何度も「物流業界向け」であることを強調し、あくまで同業界向けに記事ネタを作っていることがわかるようにしています。上記では文章にしていますが、口頭で記者に説明しても結構です。

■業界紙に広告出稿などをお願いされたらどうするか

 最近、私が企業広報の方々からよく聞くのは「業界メディアから広告出稿を要請された」「広告を出さなければ記事を書いてもらえない」といった悩みです。「ジャーナリストなのに、営業をするのはけしからん。記者は無料で記事を書くべきだ」と思われる経営者や広報の方々も多いようです。
 確かに、私は日本経済新聞社で長く記者をしていましたが、取材先に「広告を出してほしい」と頼んだことはありません。日経新聞のように経営が安定した大企業の場合、記者と営業は厳密に分かれています。このため、記者は取材して記事を書くという仕事に専念できます。その分、広告出稿に関わらず、公平な記事が出やすいとは言えるかもしれません。
 しかし、業界メディアや中小メディアの場合、記者と営業担当を兼ねている人も多いのが実情です。中小メディアの場合は人員が限られるからです。この結果、記者であっても「広告を出してほしい」「新聞を定期購入してほしい」などと企業の広報担当者や経営者にお願いせざるを得ないわけです。こうした状況を考えれば、「広告を出してほしい」という記者の立場も私は理解できます。
 では、記者に「広告を出してほしい」と迫られた場合、広報担当者はどうすれば良いのでしょうか。私の場合は、「まず当社を取材して記事を何本か書いてほしい。記事が掲載され、今後も継続的に取材してくれるようであれば広告を検討する」と言うようにしています。最初から「広告を出すから記事を書いてほしい」とこちらから申し出ると、広告を出さなければ記事を書いてもらえなくなるからです。
 また、業界メディアの記者に「数十万円以上の広告を出さなければ記事を書かない」とかなり高額の金額を指定された場合はどうすれば良いのでしょうか。私の場合はこうしたメディアの要求はすべて断っています。広告はあくまで企業側が出すものであり、金額は自社で決めるべきものだからです(もちろん広告には最低金額がありますから、そこには配慮が必要です)。
 広報とメディアとの関係は互いがウィンウィンにならなければ長続きしません。企業側が「無料でたくさん記事を書いてほしい。広告は一切出さない」と自社のみに利益がある方法を主張しても、記者の立場は苦しくなります。一方、業界メディアに高額の広告を強制する権利もありません。私の場合は、例えば年10本以上など、たくさん取材して記事を書いてくれるメディアには、多少の広告を出すようクライアントにお願いしています。双方が利益になる落としどころを見つけることが、業界メディアの記者と良い関係を続ける方法だと私は思っています。

執筆者情報

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日高広太郎

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。その後、小売店など企業担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなど多くの国際会議で日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年に東証一部上場のBtoB企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。年間のメディア掲載数を就任前の80倍超、月別、四半期別では100倍超に増やし、認知度向上に貢献した。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。クライアント企業のメディア掲載数を急増させている。
著書に『 BtoB広報 最強の攻略術』(すばる舎)がある。

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2023.02.28 17:09:08