財産の戦略づくりのステップ その2
社長の財産の戦略づくりのファーストステップとして、前回、まずは社長の財産のリストを作り、そのリストから社長の個人財産のバランスシートを作ることをお伝えしました。社長の個人財産のバランスシートは会社のバランスシートに連動していることに言及しました。そして、個人財産のバランスシートの流動性資産の割合の確認が重要と説明しました。今回は、流動性資産の割合を確認することの必要性について。社長の個人の財産のバランスシートにおける固定・流動の比率により、社長の財産の戦略も変わってきます。
個人財産のバランスシートでは、社長の自社株は固定資産に位置付ける
社長の個人財産のバランスシート作りでは、リストアップした社長の財産を、会社のバランスシートを作るのと同様に、流動資産、固定資産のいずれかを区分して、流動性配列法に従ってバランスシートに位置付けていきます。
その際、自社株式は会計上の区分とは異なり、固定資産に位置付けます。自社株も有価証券であり、流動・固定にいずれかに区分するならば、流動性資産に入りますが、未上場会社で譲渡制限が付されている自社株式は流動性がありません。そのため、社長の財産の戦略作りの基礎資料となる個人財産のバランスシートでは、自社株式を固定資産と区分することとして取り扱っていきます。
そのほかに固定資産に位置付ける財産
自社株式に加えて、会計上の区分と異なって取り扱う財産は、社長が会社に貸し付けている貸付金です。通常、貸付金は金銭債権に区分され会計上では流動性資産に入りますが、中小企業の実態から、社長の貸付金は償還期限が明確に定められていない、資本的性格が強い財産と考えられます。
社長が持つ自社株式を固定資産に区分したなら、資本的性格が強い社長の会社への貸付金も固定資産に区分して社長の個人資産のバランスシートを作成していきます。
現金・預金、上場株式や投資信託などの金融資産、そして社長が亡くなったときに得られる生命保険の死亡保険金を流動性資産とします。自宅、第三者に賃貸する不動産、自社の事業用として自社に貸す不動産、そして自社株式と自社への貸付金は固定資産とします。
個人財産のバランスシートを比例縮尺図で表す
このようなルールを適用し、社長の個人財産のバランスシートを作成します。バランスシートは、金額と面積が比例する図、比例縮尺図にして表わすと、社長の財産の戦略づくりに便利です。
流動資産・固定資産を区分して、それぞれの区分の色を違えて図示すると、社長も自身の財産状況を視覚的に理解することができます。バランスシートの比例縮尺図は財産の戦略を社長に説明するときに非常に便利な資料になります。
財産に関する課題を社長に理解してもらうことは、課題解決に向けた社長の意思決定につながります。今後、社長の財産の戦略をデザインしていく過程では、社長にわかりやすく理解してもらうための工夫や技を駆使していくことも必要です。
個人財産のバランスシートで固定資産の比率が高くなることの問題
社長の財産の戦略は、社長の財産の相続にむけた戦略でもあります。社長の相続で、社長の自社株式をどのように相続するかは、財産の戦略づくりにおいて最重要の項目です。
先ほど、個人財産のバランスシートでは、自社株式は固定資産に位置付けるルールとすることを説明しました。固定資産に位置付けた換金しづらい資産を社長の相続人にどのように承継していくのか、社長の事業承継や自社株承継の方針に合わせて個々にその戦略をデザインしていきます。
相続では、遺産の分割と相続税への対応策を明確にしておく必要があります。対応策なきままに相続が発生すれば、社長の相続手続きは速やかに進みません。
遺産の分割について、対策がなければ社長の家族にわだかまりを生じます。たとえ、後継者に自社株式を相続させることができたとしても、不公平な遺産分割となっていれば、その後解消できないわだかまりを生むことにもつながります。
また、自社株式を相続することで、相続税の支払いが必要になっても、自社株式は換金しづらい財産です。相続が発生して10カ月後に納税が必要となる相続税のことを考えると、後継者に集中して自社株式を相続することが適切なのか、迷いが生じることにもつながります。
しかし、社長亡き後の後継者による経営を考えれば、自社株式を家族に分散して相続することは、将来に問題が発生する種をまくことになります。
社長の個人財産のバランスシート作成のルールで固定資産にすると決めた自社株式と会社貸付金、そして事業用の不動産、これら固定資産の比率が高いと、必ず社長の相続では問題が発生することになります。
社長の個人財産のバランスシートにおいて、流動性資産の比率を高める戦略づくりがとても大切になります。流動性資産の比率を高める戦略づくりについては、あらためて詳しく解説したいと思います。