HOME コラム一覧 「求職者の個人情報の取扱いについての改正」②

「求職者の個人情報の取扱いについての改正」②

post_visual

前回より求職者の個人情報の取扱いについての改正の内容をお伝えしています。個人情報の問題は、提供を受けて管理する側の立場になると、特定個人情報や要配慮個人情報など用語の定義や法的な規制のルールなど複雑で理解しがたいものがありますが、立場を変えて、個人情報を提供する側の視点で考えた方がわかりやすく、腑に落ちることがあります。今回は筆者が実際に体験したケースをご紹介しつつお話ししていきます。

採用エントリーシート記入の案内メールが届く

あるブランドを運営する企業から届くメールマガジンは、ふだんは新商品やイベントの告知などをお知らせする内容のものでした。そんななか、その企業の採用活動に関する内容のメールが届いたら、誰しもがちょっと違和感を抱くでしょう。多くの企業は、お客様へ商品やサービスの案内を行うのは営業や販売、広報部門、求職者へ採用についての案内を行うのは人事・総務部門と分かれており、それらが混在しているとは考えにくいためです。
とはいえ、企業の採用に関する内容のメールが一般的な内容のものであれば、たくさん届くDMの中で特段気に留めないかもしれません。しかしそこに個人情報が含まれていたら、そしてそれが自分以外の氏名宛のものだとしたら、一体何が起こっているのだろうと不審に思われるでしょう。そのようなことが3年ほど前に実際に起きました。

原因と背景

その企業を仮にA社とすると、筆者はA社の商品を複数回購入しており、マスメディアで取り上げられることもあってそのブランドの熱烈なファンも多い会社です。もともとそのブランドのファンの方が従業員となって働くケースもあると聞いていました。
すぐにメール誤送信に関するお詫びのメールは届いたのですが、私の知らない個人名宛の内容だったことから、逆も起こっているのではないか?ということも想定されたため、なぜこのようなことが起こったのか詳しい経緯を知りたく問い合わせをしてみました。
原因としてはシステム上の問題やオペレーションの問題などの要因があったのですが、背景として「そのブランドのファンの方が従業員となって働くケースもある」というところがポイントで、個人情報を取り扱う担当者の意識として「販促活動としての個人情報」と「採用活動としての個人情報」との取り扱いが明確に区分されていないことが要因として大きいという印象を持ちました。

個人情報を取り扱う「目的」

では、「販促活動としての個人情報」と「採用活動としての個人情報」を混在させること自体がただちに違法なのかというと、同一の会社内の話であれば必ずしもそうではありません。しかし、ここで問題になってくるのが個人情報を取り扱う「目的」です。
一般的な感覚として、商品やサービスのユーザーとして個人情報を登録したのであれば、商品やサービスについての販促・宣伝のお知らせが来ることが想定され、その企業の採用活動についてのお知らせが来るとは思っていない人がほとんどでしょう。また、求職活動として個人情報を登録したのであれば、その企業の採用活動についてのお知らせが来ることが想定され、商品やサービスについての販促・宣伝のお知らせが来るとは想定していないはずです。そのブランドの熱烈なファンの学生で、その運営企業に就職したいと考えている方にとっては大歓迎かもしれませんが、全体からすれば一部のはずです。

「一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示」とは

立場を変えて、「すでにうちの会社のブランドのファンである方(学生)に、うちの会社の採用に応募してほしい」と考える企業があったとします。そういう立場からすると、商品・サービスのユーザーとして登録している方々に採用に関する情報も発信できたらとても効率的になるはずです。
しかしこのときに、個人情報を取り扱う「目的」に思いを馳せなければなりません。企業の実務として捉えれば効率的な方法が優先されるかもしれませんが、一旦、個人情報を提供する側の立場になって、考えてみる必要があるということです。
職業安定法の改正が求めている、求職者の個人情報を「一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示」とはまさにそういうことで、企業側の効率化の観点だけで考えていては解を見つけることはできないということがわかってくると思います。
以上のように立場を変えて考慮していくと、多くの方が一般的に想定できる目的で使用する範囲については、ことこまかに(=「メールマガジン」とか「面接の日程」とかまで。求職者の個人情報の取扱いについての改正」①参照)明示することまではしなくてもよいのではないか。一般的に想定できないような目的で利用することがあるような場合については、その点についてはかなり具体的に明示、説明することが求められるのではないか、というように切り分けて捉えることもできるように思います。

今回ご紹介した事例は、商品やサービスのユーザーとして登録された個人情報を採用活動という目的で利用するという例でした。職業安定法が改正で求めているのは、採用活動として登録された求職者の個人情報について、その目的を明示せよ、という逆の文脈です。次回は、なぜこのような改正に至ったのかについてお話ししたいと思います。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

人事労務の法改正茶屋

記事の一覧を見る

関連リンク

「求職者の個人情報の取扱いについての改正」①

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2022/img/thumbnail/img_64_s.jpg
前回より求職者の個人情報の取扱いについての改正の内容をお伝えしています。個人情報の問題は、提供を受けて管理する側の立場になると、特定個人情報や要配慮個人情報など用語の定義や法的な規制のルールなど複雑で理解しがたいものがありますが、立場を変えて、個人情報を提供する側の視点で考えた方がわかりやすく、腑に落ちることがあります。今回は筆者が実際に体験したケースをご紹介しつつお話ししていきます。
2023.01.19 20:26:30